【大人のための絵本】vol.5
モデル・アンヌさんが推す「身も心もぽかぽかになる絵本」
芯から温まりたいとき
こんにちは。アンヌです。この原稿を書いている今日は、一際寒い。もうもうと湯気のたつ温泉にどっぷり浸かり、芯から温まりたくなります。とはいえ、急にお出かけもできません。
でも大丈夫。気持ちさえ温まれば、自然と全身がほかほかしてくるものだと思っています。
まさにそんな経験をしたのは、息子が小学2年生になったときのことです。転入したばかりの学校で、親の私でさえ右も左もわからず、不安な気持ちでいっぱいでした。道具箱や上ばきはどこに置くのか。「探検ボード」とは、一体何を指すのか。制帽は何サイズを選ぶべきなのか迷いました。結局Sを購入して登校させましたが、どうやらきついみたい。仕方なくワンサイズアップしたものを再購入。小さいほうの帽子は、さてどうしようかしら。困った私は、ひとまずそれを鞄に入れ、保護者会に出向きました。
クラスに入ると、みんな親しげに話しています。私は知人がいないので、席でポツンと一人。息子も同じような心細さを感じているのだろうと思いながら。
突然、前の席に座っていたお母さんが振り向いて、話しかけてきました。
「新しく入ってきた方? よろしくお願いします」
ほっとした私は、小さい帽子を鞄から出し、こう返しました。
「わからないことだらけなんです。先日もこんなふうにサイズの合わないのを買ってしまって」
すると、ちょうどお子さんの帽子が大き過ぎて困っていたというのです。私はすぐに差し上げ、顔見知りのお母さんができたことを喜びながら家に帰りました。
しばらくして、参観日に再会すると、可愛らしい包みを手渡されました。びっくりして開けてみると、ピアスが2つ。美しい色合いのビーズを繊細に組んだ素敵なものでした。「作ったの。シルバーとブルーが似合いそうだなと思って」
行き場に困っていた帽子だったのに、お返しだなんて! しかも私をイメージしての手作り!
そのときほど感激したことはありません。じーんとして、家に帰ってからもずっと、身も心もほかほかでした。
今回は、そんなふうに温まる2冊。冬を乗り越えるために!
『しんせつなともだち』
作/方 軼羣(ファン・イーチュン) 訳/君島 久子 画/村山知義(福音館書店)990円
ある雪の降る寒い日のこと。一匹のこうさぎが食べるものを探しに出かけます。するとカブがふたつ。一つは自分で食べますが、もう一つは友だちのろばに持って行くことにします。きっとお腹を空かせているに違いないと。ところが留守でした。ろばも食べ物を探しに出かけていたのです。ろばがサツマイモを見つけて戻ってくると、カブがあることに驚きます。そこで、やぎに届けることに。そして……。次々と友だちがそのまた友だちを思いやってカブを運んでゆく展開が楽しいロングセラー。優しさに溢れていて、心が温まること間違いなしです。
『手ぶくろを買いに』
作/新美南吉 絵/黒井健(偕成社)
1,540円
昔、小学校で学んだ記憶もあるでしょう。狐の親子のお話です。雪原で遊んできた子どもの手が、真っ赤になっていることを心配したおかあさん。手袋を買ってあげようと町へ出かけます。ところが人間にひどい目に遭わされた経験を思い出し、途中で一歩も進めなくなってしまいます。そこで、子狐だけを、ひとりでお店に行かせることに。人間の振りをするよう言い聞かせますが……。驚くべき展開に人間そのものについて深く考えさせられながら、心の温かみが伝わる屈指の名作。ぜひ、もう一度読み返してみて。
選・文/アンヌ
モデル、絵本ソムリエ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。
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