今の住まいに夏支度を Vol.3
今どきの住まいでナチュラルに夏を過ごしたい。
そんな方のヒントになる「夏支度あれこれ」を3回連載でお届けします。
最終回は編集者で文筆家の小川奈緒さんです。
「庭と縁側の風情にひとめぼれ」し、築35年の家をリノベーションした小川さん。
設計は建築家・渡辺貞明さんに依頼しました。
広い縁側と軒先、緑の庭……昔ながらの涼が漂う住まいには夏を快適に過ごす工夫がいっぱいです。
1.涼を呼び込む設計
「渡辺さんは家を見るなり、『庇が短すぎておかしい。まずは庇を長く延ばそう』とおっしゃいました。
そうかもしれないけれど、あまり軒を深くしてしまったら部屋が暗くならないか心配で」
そこで江戸時代から昭和初期の建造物が見られる東京都・小金井市の「江戸東京たてもの園」に出かけ、近代の名建築を見てまわったそう。
「すると、どの家も軒が深いんです。室内は少々暗いのですが、それも落ち着きがあっていい。
渡辺さんのおっしゃった意味がよくわかりました」
実際に暮らしてみると、庇の効果は絶大。
夏の日射しは計算されたように縁側の際までしか届かず、部屋の中はひんやり涼やか。
近くの川から吹いてくるやさしい風も手伝って、エアコンはあまり出番がないそうです。
2.風通しをよくする工夫を
「窓を開けていると風と一緒にほこりも入ってくるので、掃除機をかけ、気になるところをサッと拭き上げます。
掃除をきちんとしておくと、暑い日も心が落ち着いていられます」
1階は二間続きの和室をフローリングのLDKに改装。
仕切りを取り払い、床の間があった西側の壁に腰窓を設けたことで、さらに風通しがよくなりました。
夏は欄間の障子もすべて開けておきます。
窓に高低差があることにより、自然に風が流れます。
3.軒と暗がりを作る
照明は必要な所に必要な分だけ。
ソファ側の天井はあえて下げて、ほのかな暗がりを演出。
手前の短い部分がもともとの庇。
改装の際に継ぎ足して、倍ほどの長さにしたのがわかります。
4.外とのつながりを作る
午前8時にはきっちり始業し、11時から同じく在宅ワーカーのご主人と縁側でコーヒータイム。
「庭の木々を眺める時間は気分転換に欠かせません。
たとえ縁側の分、リビングが広くても、こんな心地よさは得られなかったと思います」
季節のいい時期は庭で食事をとることも。
軒下を覆うように配したグリーンが涼しげ。
5.自然の“ ゆらぎ”を愛でる
「庭の木々は夏はこんもりと繁って日射しを遮り、逆に冬は落葉して温もりを届けてくれる。
日本の家も庭も、つくづく自然の摂理に沿ってうまくできているなぁと感心します」
時折「チリン」と響く風鈴の音に、かすかな風を感じて。
「暑い日の来客時は、蛇口を少し開けてつくばいの水を流しておきます。
水音に迎えられると、暑さも疲れも忘れます」
6.水やりで涼を運ぶ
日中の暑さがやわらぐ夕方にもう一度庭に水をまくと、風の温度がスーッと下がるのがわかるそう。
夕飯前にひと風呂浴びてサッパリすれば、夜、寝るまで扇風機だけで充分です。
「エアコンのスイッチを入れる前に、できることってたくさんあると思いますね」
夏の水やりは1日2回。
しっとり濡れた木々の葉は見た目に涼しいだけでなく、気化熱の働きで地面の温度を下げるのにも効果的。
人も植物も元気になります。
photograph: Isao Hashinoki text: Chikako Hayakawa
『大人のおしゃれ手帖』2015年8月号より
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