【大人のための絵本】vol.6
モデル・アンヌさんが推す「感謝の気持ちを伝えたくなる絵本」
年度末の締めくくりに
こんにちは。アンヌです。外に出ると、沈丁花の香りが鼻をかすめるこの頃。年度末に、お世話になった人や楽しかった事を思い出して、ありがとうと呟きたくなります。そして春を迎えられることにも。
どんなに些細なことでも、感謝の気持ちを忘れないでいたい。
私が初めてそう思ったのは、フランスでのことです。長い間体調不良で動けなかった友人が、ある日、電話をくれました。元気になったと。
療養期間中は一人暮らしだった彼女のために、私は差し入れをしたり、買い出しに行ったりしていました。いつでも「助かるわ、ありがとう」と言ってもらえて嬉しかったものです。そのお礼にご馳走したいと言うのです。
待ち合わせは彼女の家から近いイタリアン。私の家からはバスで一本の場所でした。昼間の時間帯なら道は空いているはず。遅れる心配はないと思っていました。
ところがその日に限って、バスが20分も遅れてやってきたうえに、問屋街の細道で荷下ろしのトラックが道をふさいで渋滞。バスが大通りをスムーズに走り出したころには約束の時間をゆうに過ぎていました。まだ携帯電話もない時代。遅れると伝えることもできず、回復したばかりの友人を待たせている申し訳なさが増すばかりでした。
結局レストランに着いたのは、約束の時間を45分過ぎたころ。友人は奥の席で待っていてくれました。首のサポーターは体調が万全ではないことを物語っていました。
「遅くなってごめんね!」
私は彼女の顔を見るなりそう言いました。
「バスがなかなか来なくて、道も渋滞していて」
私は何度も謝ったのです。
彼女はそれをしばらく静かに聞いていました。そしてゆっくりと口を開くと、「さっきから謝ってばかりね。待っていてくれてありがとうと言われる方がずっと嬉しいのに」。
その途端、私ははっとしました。
以来、私は、感謝の気持ちを持つこと、伝えることを、何よりも優先しようと思うようになりました。それは、人に何かをしてもらったときだけでなく、暖かい日差し、鶯の鳴き声、そして沈丁花の香りに対しても。
今回は、そんな気持ちを大切にしたくなる2冊です。
『わすれられないおくりもの』
作・絵/スーザン・バーレイ 訳/小川仁央(評論社)1,320 円
物知りでみんなから尊敬されているアナグマ。でも自分の死が迫っていることを感じ、みんなが悲しまないようにと手紙を残します。そして静かな旅立ち……。仲間たちは悲しみをどのように乗り越えていくのか。アナグマの思い出を語り合い、愛情や知恵を受け継いでいることに気づいてゆきます。やがては感謝の気持ちへ。人との関わりについて深く考えさせられる、美しいロングセラーです。
『ありがとうのえほん』
作・絵/フランソワーズ・セニョーボ
訳/なかがわちひろ(偕成社) 1,320円
ぱっちり目が覚めたのはおんどりが鳴いてくれたから。朝ごはんのゆで卵はめんどりが。嬉しい気持ちになるのはおひさまの光のお陰……。私たちはいろいろなものに囲まれ、支えられて生きているのです。そのことに「ありがとう」。やさしい言葉と色使いで小さな子ども向けに描かれていますが、読むと感謝の原点に戻りたくなる作品です。作者は『まりーちゃん』シリーズが懐かしいフランソワーズ。とにかく絵が可愛い。
選・文/アンヌ
モデル、絵本ソムリエ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。