シャネル、サンローラン、マルジェラ……ハイブランド映画3選 ~時代を創ったファッションデザイナーたちの光と影~
『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』© 2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions
いつの時代も人々を虜にしてきた、新しくて美しいファッション。今でこそ老舗といわれるブランドも、誕生当時は斬新で挑発的と受け取られ賛否を呼んだこともあるといいます。それでも己を信じて創作を続け、モード界の潮流をつくったファッションデザイナーたち。その傑出した才能と苦悩に迫る映画・ドキュメンタリーを紹介します。
目次
イヴ・サンローランの輝きと退廃に満ちた10年間
『SAINT LAURENT/サンローラン』
エレガンスを体現したファッションデザイナー、イヴ・サンローラン。クリスチャン・ディオールのアシスタントを経て、21歳で「ディオール」の後継者となり、1961年に恋人ピエール・ベルジェの出資により「イヴ・サンローラン」を設立。1965年に発表したモンドリアン・ルックが世界的に注目を集めた直後の1967年からの10年間にスポットを当てた伝記ドラマです。
華々しい成功を収めたイヴは、女性たちに動きやすいメンズライクなファッションを提案するなど新しいモードを生み出す一方、重圧に苦しんでいました。ブランドのミューズやモデル、男性の愛人らと刹那的な快楽に溺れても孤独感は募り、戦争に徴兵された際にストレスから精神を病んだことも影響してアルコールやドラッグ漬けの日々に。そんな彼をピエールは支え続けますが、やがてデザイン画さえ描けなくなっていきます。
繊細でシャイで類まれな才能を持つファッションデザイナーの絶頂期をギャスパー・ウリエルが演じた本作。劇中の優美なファッションだけでなく、退廃的に煌めくナイトクラブの様子など、映画全体がアートのような美しさ。イヴは、男性用香水の広告として自らがヌードになったポートレイトを使用して世界中に衝撃を与えましたが、その撮影シーンも再現されています。
最後にギャスパー・ウリエルのことも。シャネルの香水のモデルを長く務めたフランス映画界きっての美形俳優。彼が10代の終わりに出演した『かげろう』では、未亡人役のエマニュエル・ベアールと恋に落ちる年下の青年を演じ、あまりに美しい顔立ちが話題となりました。その後、ハリウッド映画にも進出しましたが、2022年1月にスキー中の衝突事故により37歳で帰らぬ人となりました。中年期に入り渋さを増しつつあった彼の今後の出演作を観られないことはとても残念ですが、本作でのウリエルの美しさは、美を追求したイヴ・サンローラン自身を表現するのにふさわしいといえるでしょう。
『SAINT LAURENT/サンローラン』
2014年製作
U-NEXT配信中
孤児院育ちの少女が世界のシャネルになるまで
『ココ・アヴァン・シャネル』
「シャネル」の創設者で世界一有名なファッションデザイナーともいえるガブリエル・シャネルに関する映画はいくつかありますが、本作は成功をつかむまでの若き日を『アメリ』のオドレイ・トトゥ主演で描いた伝記映画です。
フランスの片田舎の孤児院で育った少女は、施設を出た後にお針子として働きながらキャバレーで歌い、そこで出会った貴族エティエンヌ・バルザンに見初められて愛人となります。そう、少女シャネルは歌手を夢見ていたのです。「ココを見たのは誰?」という歌をキャバレーで歌っていたことから「ココ」と呼ばれるようになった彼女は、バルザンの屋敷で暮らしながら乗馬を覚え、アーサー・カペルと恋に落ちます。貧しさと孤独に耐えてきた少女にとって、裕福な屋敷での安全な暮らしは夢のようなものだったでしょう。
でも、ココは反骨精神の持ち主でした。ココが作る男物のような帽子は大きな羽根飾りをつけた帽子をステイタスとする貴婦人たちにとって衝撃的なものであり、ココが身に着けた、コルセットもスカートのボリュームもないブラックのドレスもまた斬新なものでした。ココが提案するシンプルなスタイルに、女性たちは自由を感じたのです。自信と少しの不安と感動の入り混じったようなラストシーンのココの表情が印象的です。
『ココ・アヴァン・シャネル』
2009 年製作
ブルーレイ ¥2,619/DVD ¥1,572
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
謎の存在であり続けるデザイナーが自ら語る
『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』
モデルの顔をマスクで覆ったファッションショーや足袋ブーツなどの意表をつくデザインで人気を呼んだ「マルタン・マルジェラ」。80年代末から2000年代にかけてモード界の寵児でありながら、一切公の場に姿を現さず取材も撮影も断り続け、匿名の存在であり続けたファッションデザイナーのマルタン・マルジェラは、2008年にブランド20周年のショーを開催し、同日にファッション界の引退を発表しました。それから10年を経ても相変わらず姿を見せないマルジェラが、初めて自身のキャリアやクリエイティビティについてカメラの前で語った貴重なドキュメンタリーです。
マルジェラの信頼を勝ち得ることに成功したのは、『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』を撮った監督のライナー・ホルツェマー。ドローイングや膨大なメモのほか、“初めて作った服”も披露。仕立て人だった祖母の影響で子どもの頃からバービー人形の服を作っていた少年マルジェラが作った小さなジャケットが、そのまま「マルタン・マルジェラ」であることに驚かされます。
マルジェラ自身の語りと、若き日のマルジェラをアシスタントとして採用していたジャン=ポール・ゴルチエらの証言によって振り返るひとりのファッションデザイナーの歩みは、そのまま80年代末から今日に至るファッション界の流れでもあります。淡々とした構成ながら、成功者であることよりもファッションデザイナーであり続けたかったマルジェラの思いが伝わってくる作品です。
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構成・文
ライター中山恵子
ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。
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