【インタビュー】
月9ドラマ出演中の中谷美紀さん
“二拠点生活”で改めて感じた「日常の尊さ」とは?
いつでも、自分を俯瞰して見る。
そんな姿勢で生き、綴っていきたい
2023年が過ぎていこうとしています。激動の国際情勢に心を揺らし、国内に目を向けてもさまざまな出来事に翻弄され、さらには気象や自然環境の劇的な変化に戸惑いながらも、なんとか辿り着いた年の暮れ。
中谷美紀さんにとっても、仕事に、プライベートに、新しい経験を重ねた一年でした。
俳優としての今年最後の作品は、フジテレビ系列で月曜夜9時から放送中のドラマ『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』。二宮和也さん演じる逃亡犯、大沢たかおさん演じる洋食店のシェフ、そして中谷さん演じる報道キャスター・倉内桔梗という、まったく立場の異なる3人の人物の運命が交差し、クリスマスを迎えるまでの24時間を描くという謎多き異色の作品が、まもなく大詰めを迎えます。
「桔梗は、観る方に贈りものをするように番組を作りたいという芯を持った仕事人。大きな局で原稿がすべて用意された状態に安住するのではなく、自ら取材した事件やニュースを届けたいという真摯な思いで自分の仕事に向き合っている、いわば職人気質な人物です。
そういうところは本当に素敵だなと思いますが、かといって、あれほどまでに自分の人生を投げ打って仕事にばかり打ち込んでいたら疲れるのではないかな、と心配したりもするのですが(笑)」
このお話を伺っている時点では、結末はまだ霧の中。
同時並行する二宮さん、大沢さんの現場についても、制作側の意向で「まったく拝見していないんです」と中谷さん。
「あくまで単独の物語として演じ、バラバラのピースがはまって最後に交わるところを見てもらいたいというプロデューサーのお考えを尊重しました。でも、桔梗が大切にしているものづくりについての思いは、きっとこの作品に関わるプロデューサーや脚本家、監督の皆さんの総意であるはず。そうしたおひとりおひとりの顔を脳裏に思い浮かべながら、代弁させていただくつもりで演じています」
媒介者。
自らの俳優としての役割を、中谷さんはそう述べます。原作があれば原作を、オリジナル脚本であれば執筆者の意図を、監督や制作者の思いを、自らの表現力を通して届ける仕事に専心し、重ねた30年の歳月。
自分や周囲が健康で、おいしく食事がいただけることに感謝して生きていくことから
そんな中谷さんの心の内を覗けたら……という願いが叶ったのは、この秋。
刊行された最新刊『文はやりたし』は、文芸誌に7年間連載してきたエッセイの集大成となる一冊です。
「なかなか読む方も少なくなったであろうと思われる文芸誌で、人知れず……毎回、書きたいことは思い浮かぶものの、たいがいが締め切り間際のギリギリになって慌てて書き始める、という体たらくで(笑)。でも、幸い打ち切りになることもなく続けられて、こうして本にすることができました」
ドラマや映画の撮影中の秘話。舞台公演中の興奮の日々。
そして、結婚、オーストリアとの二拠点生活の始まりとその充実……。
それらの出来事の中での心の動きが、怜悧な中谷さんらしい視点と筆致で綴られています。
「私が、というよりは、なるべく客観的な文章を書きたいと思いまして。世阿弥のいう『離見の見(能楽論書『花鏡』に記載)』のように、いつでも自分のことを俯瞰して見る姿勢と言いますか、そのように物事を捉えていたいと思いますので。普段通りの生活をしながらも、どこか自分が傍観者のように完全に没入しきらず、少し引いて眺めているところが、そのまま文章に反映されているのではないかと思います」
それでも、特に日々の様子を記述する文章などからは、やはり心の弾みや驚きが率直に伝わります。ゴミの分別に苦慮し、通じにくい言葉でのコミュニケーションに奮闘し、ある時は外国語での特殊詐欺(!)の電話に応対する様子などは、まさに等身大の女性の日常。そして、2020年以降はコロナ禍やウクライナ情勢などを受けての社会の変化、その動向にも、澄んだ眼差しが向けられています。
「孤独が辛いという方にとってはコロナ禍の日々は試練だったことと思いますが、幸い私は孤独を楽しめるタイプの人間。出入国が自由にできないなど、さまざまな不自由は体験しましたが、むしろ水を得た魚のように、と申しますか……誰からも邪魔されない自由を満喫していたように感じます。身なりを繕うことに必死にならなくてもいい時間というのも、ある意味、非常に貴重でありがたい期間でしたし」微笑む中谷さん。
しかし、ヨーロッパ滞在中は、陸続きで起こる戦火の影響を肌身で感じる出来事も起きたといいます。
その度に感じるのは、やはり平穏な日常の尊さ。「限られたものの中で生きていくこと、そして、天気がいいとか、おいしい野菜が手に入ったとか、そうしたささやかな喜びを感じられることだけでも、十分幸せなのだな、と。
日々のニュースに振り回されて暗澹たる気持ちになっているだけでは何も始まりませんので、まずは自分や周囲が健康で、おいしく食事がいただけることに感謝して生きていくことから、とますます思うようになっています」
波瀾万丈なドラマはどのように落着するのか、そして私たちの日々は……筋書きのない日々は、きっとこれからも中谷さんの筆で綴られていくことでしょう。
エッセイだけでなく、いつか私たちは、さまざまな経験を積んだ中谷さんが描く物語を読むこともできるのでしょうか?
「いえいえ、私はリアリストなので、ファンタジーが作れないんですね。それはむしろ、夫が得意とするところで。演奏会に向けてストーリーを想像している彼を見ていると、つくづく、アーティストなのだなと感じます」
MIKI NAKATANI
今年の出演作にドラマ『ギバーテイカー』、映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』、舞台『猟銃THE HUNTING GUN』(ニューヨーク公演)がある。ドラマ『ONE DAY 〜聖夜のから騒ぎ〜』はTVerで全話配信中。また、12月13日には夫でヴィオラ奏者のティロ・フェヒナー氏の所属する管弦楽アンサンブル「フィルハーモニクスウィーン=ベルリン」のコンサートにナレーターとして出演。東京オペラシティコンサートホールで13時30分、19時の2回公演あり。詳細はジャパン・アーツぴあにて。
中谷さん着用:シャツ¥39,600 /トゥジュー(トゥジュー代官山ストア)、ベスト¥61,600/クリスタセヤ(ジャーナルスタンダード ラックス 表参道店)、イヤリング¥159,500/トーカティブ(トーカティブ 表参道)
撮影/伊藤彰紀[aosora] スタイリング/岡部美穂 ヘアメイク/下田英里 文/大谷道子
大人のおしゃれ手帖2024年1月号より抜粋
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