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2024年10月号

2024年9月6日(金)発売
特別価格:1480円(税込)
表紙の人:吉田羊さん

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【リリー・フランキーさん】「いろいろやってきたことが、ひとつのことにプラスになっている」/映画『コットンテール』インタビュー

大人のおしゃれ手帖編集部

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60代のいまは「消えていくものへの贅沢に興味が湧く」日々

 テーブルに置かれた本誌をパラパラとめくり、健康の特集に目を留めたリリーさん。「免疫力、気になりますねぇ。先日共演した俳優さんに、大腸の話を死ぬほど聞かされて」とつぶやきます。60代に突入すれば健康を気にかけるのも当然に思えますが、リリーさんが、となると意外(?)という気も。

「生活に興味が出ますよね。以前はとくに意識しなくても生きていけたんですけど、いまはちゃんと生活しないとしんどい。眠いし、疲れやすいし。若いときは毎日お酒を飲んでいましたが、回数も減り、次の日に一日寝るつもりがないと飲みません。でも一回に飲む量は全然減っていないし、以前も飲んだ翌日に撮影に行き、現場ですぐ寝たな……と思うと、いまと同じか! 撮影の前日に飲まないという分別がついただけ!(笑)」

 そんなリリーさんにとって、50代はどんな日々だったのでしょう?

「これまた男と女とではだいぶ違いますよね。とくに女性の50代って‟(更年期の不調を改善する)命の母A”を伴う戦い、みたいな。男にもあるでしょうけどそのへんがぼんやりしているというか、知らないうちに60になる。節目のない感覚があります。やっぱり男も女も似たようなことを考えながら60に向かっていくんじゃないですかね。際立った贅沢ではなく、生活の質を高めるという贅沢に興味が出る。僕も、写真や絵を買うのをやめましたもん。それほど高いものを買うわけじゃないけど、死んだあとに処分をどうするんだ? と友だちにあげたりしてます。形のあるものをお金で買っていくのはちょっともうしんどい。お醤油くらいはいいものを買いたいなとか、消えていくものへの贅沢に興味が湧くというか」

 日常のなかでの変化は、食の嗜好だけではないよう。

「ジジイになると、一度も思ったことがないことをするようになります。昨日も宿泊予約のサイトで‟雪深い温泉宿”を探していました。ニューヨークやパリじゃないんですよ。雪が積もっていない温泉宿ならいつでも行けるけど、‟雪深い温泉宿”はいまの季節しかないし。わざわざ別のサイトで、宿周辺の積雪量を調べたりして。スキーはしたくないのに雪に向かっていくって、歳を取らないとなかなか思わないですよね。こうしてちゃんと、年寄りが好きなものを好きになっていくんだなと」

 それでいて40~50代は男女とも「年相応に見られたくない」という同じような‟病気”にかかりやすい、とも。

「女性なら美魔女、とか。そこから解き放たれた人の方がむしろ若く見えるというか、健やかに見える気がしますよね」

 リリーさんは、まさにそうした‟患い”からすっかり解き放たれているように見えますが、見た目だけではなく、世間からどう見られるかについてどう感じでいるのでしょうか。イラストレーター? 文筆家? 俳優?……。

「僕の場合、すべてが成り行きです。しかも全部が他動的。いまや生業がなんなのかが見えにくくなってきました。昔は専業であることのほうが日本では美しいとされ、技術の高いプロなのだという錯覚のもとでみんながんばってきたわけです。でもいまの若い人はいろいろなことをやるのがクリエイティブである、というふうになってきて。僕もこの世界に住みやすくなりました(笑)。とはいえ、お芝居の仕事ばかりは、頼まれない限りは始まらない。お話をいただくことがなくなれば、『最近、写真を撮ってねぇな~』って、そんなふうに俳優業も、自分のなかで淘汰されていくのかもしれません」

 そうとぼけますが、いまリリーさんが演じているような役柄を、他に誰が? と考えるとすぐには浮かびません。なんとなく当たり前みたいに、でも素通り出来ないような佇まいで画面のなかに存在し、その世界の一部となって面白味を醸し出す。すべてを計算していたとしたらとんでもないウルトラCを、「えっ何が?」みたいな脱力感を伴いながら成立させる俳優。これからも多くのつくり手がリリーさんを求めるだろう未来が見えます。

「いろいろな経験したことが逆に、ひとつのことにプラスになっているのかもしれません。人生経験が大切なんだなと。いろいろなことをやってきてよかった、たくさんの映画を観てきてよかったなと思っているんですよね」

PROFILE:リリー・フランキー
1963年生まれ、福岡県出身。『ぐるりのこと。』で映画初主演。その他の主な出演作に『凶悪』、『そして父になる』、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』。
現在、『ペンション・恋は桃色season2』FOB独占配信中、NETFLIX映画『パレード』が2月29日より独占配信。その他、初の長編小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」が本屋大賞受賞、オリジナル絵本「おでんくん」と文筆、イラスト、写真、作詞・作曲、俳優と多分野で活動。


リリー・フランキーさん主演映画『コットンテール』

妻への想いを葬り、失われていた息子との絆を取り戻す旅。日英合作のロードムービー。ローマ国際映画祭〈最優秀初長編作品賞〉受賞作。

●監督・脚本/パトリック・ディキンソン 
●出演/リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨 
●3月1日~新宿ピカデリーほか全国公開
©2023Magnolia Mae/ Office Shirous

撮影/鈴木千佳 ヘアメイク/Aki Kudo 取材・文/浅見祥子
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