【中谷美紀さん】仕事への思いを吐露
「人のために尽くせることがありがたいと思えるように……」
(大人のおしゃれ手帖2023年2月号)
自分のためだけには生きられない。
愛すべきものをまっすぐに見つめる幸福が前に進む力を与えてくれます
鮮やかなピンク色のジャンプスーツをまとった中谷美紀さんが現れると、スタジオには暖かな春の光が。
オーストリア・ザルツブルクにも拠点を持つ中谷さんは、日本よりもはるかに厳しく長い冬との付き合い方について、笑顔を交えこんなふうに語ります。
「真冬でも、ダウンジャケットを着て白い息を吐きながらテラスで朝食をとるとか……ほとんど我慢大会ですね(笑)。でも、都市の路上では濁ってしまう雪も、山へ行けば見渡す限り真っ白で、スノーブーツで歩いているだけでも心が晴れる思いがします。あとは、どんよりした気候の中で自分を鼓舞するために、普段はほとんど身に着けない鮮やかな色の服を選んだり……。そう、今年はちょうどピンクのニットを自分でも購入したんですよ。気持ちを上げたくて」
ヨーロッパで過ごす冬も回数を重ね、楽しみ方をすっかり会得された様子。
日本では、テレビドラマと映画のふたつの最新出演作がまもなくお披露目となります。
1月22日から放送・配信が始まる連続ドラマW『ギバーテイカー』は、人気コミックを原作にしたクライム・サスペンス。
自分の娘を殺した猟奇殺人犯と対峙する刑事・倉澤樹を演じる中谷さんは、終始ダークスーツに身を包んだストイックな佇まいです。
「色も、一切のアクセサリーも身に着けず……。あまり褒められたことではありませんが、撮影中は、食事もあまりとらないようにしていました。お腹がいっぱいに満たされていると、どうしても幸福な顔になってしまうので。映像で振り返ると顔がずいぶんシャープなので、自分でも驚きましたね」
フィクションとはいえ、愛娘を理不尽な犯罪で奪われてしまうという壮絶な悲しみに向き合う役は「二つ返事で、というわけにはいきませんでした。
撮影が始まってからも、『演じるのは、もうこれで最後にしたい』と泣きながら夫に訴えたこともあったほど」だったと言います。
そんな日々の支えになったのは、力強い脚本とスタッフから受けた心のこもった導き、そして、ある芸術作品との偶然の出合いでした。
「エドヴァルド・ムンクの創作に共鳴したアーティストの作品展で、性暴力を受けた経験を持つトレイシー・エミンの絵画を見たんです。一見、きれいな絵だなと思っていたその作品に込められたものを知ったときの衝撃は、今思い出しても震えるような……。出来事としては異なりますが、女性にとってはどちらも魂の死につながる体験。それを表現したエミンの強さを、演じている間、常に体の底に感じ、ときには呼び起こしながら……本当に、彼女に助けられたと思います」
人から大事な存在を奪い取ることは決して許されないけれど、奪わなければ生きていけない境遇に置かれた人もいる、と中谷さん。
原作では20代の倉澤が母親である大人の女性に置き換えられたことも、作品に一筋の光を与えています。
「憎しみや怒りを、生きる手段として……モチベーションとしては、決して美しいものではないかもしれませんね。でも、それがあるからこそ、自分と同じような苦しみを覚える人をひとりでも減らしたいし、それに囚われた人にわずかでも手を差し伸べることができたら、と思える。
そうやって、彼女は何とか生きていこうとしているんでしょう」
癒えない悲しみを、罪を犯した人ごと抱きしめようとする倉澤に、痛ましくも確かな希望を感じずにはいられません。
ジャンプスーツ¥42,900/ハイク(ボウルズ)、シャツ¥57,200/サポートサーフェス(サポートサーフェス)、イヤリング¥140,800/トーカディブ(トーカティブ 表参道)、シューズ¥63,800/ビューティフル・シューズ(ギャラリー・オブ・オーセンティック)
人のために尽くせること
また、そういう仕事ができているのだということは、とてもありがたいこと
そして、大人の女性ならではの包容力を実感するもう1作が、1月27日から公開される映画『レジェンド&バタフライ』。
戦国時代の覇者・織田信長とその妻・濃姫(帰蝶)の波乱の人生の物語の中、中谷さんは綾瀬はるかさん扮する濃姫を終生母のように支えた筆頭侍女・各務野を演じています。
「時代劇の扮装のインパクトに負けないよう、こちらの作品では少々、頬がふくよかになっております(笑)。現代のように、痩せていることが美徳とされる時代ではなかったでしょうしね。私にとっては何より、綾瀬さんが濃姫であったというのが大きなことでした。各務野のように、私も17歳の綾瀬さんに出会って以来、ずっとご一緒させていただいてきた身ですから。彼女に寄り添い、彼女を見つめて、その心の機微を身近に感じて、一緒に笑ったり、ときには泣いたり……」
わが子のような愛すべき存在をただまっすぐに見つめ、生きた日々は、この上なく幸せな時間だったと振り返る中谷さん。
「そうしたDNAが、やはり女性には組み込まれているのかもしれませんね」と、感慨深げに語ります。
「私には子どもはいないのですが、20代、30代、そして40代と仕事をしてきた中で、自分だけのために頑張るということはいつしかすごくしんどいなと思えてきたんです。モチベーションが続かず、息切れが生じてしまいそうになるときも……。ですから、たとえ役の上ではあっても、人のために尽くせること、また、そういう仕事ができているのだということは、やはりとてもありがたいことなのだと、あらためて」
思い出深い作品を送り出し、自身もさらに先へ。
俳優としての活動30周年を迎えるこの春、中谷さんはニューヨークでの舞台公演という大きな挑戦を控えています。
観客のため、そして愛する人々のために心身を捧げる中谷さんの姿を、今年も私たちはまぶしく見つめることになるのでしょう。
MIKI NAKATANI
1976年東京生まれ。最近の出演作にドラマ『Followers』、映画『総理の夫』、近著に『オーストリア滞在記』がある。
WOWOWの『連続ドラマW ギバーテイカー』は1/22より毎週日曜午後10時に放送&配信。映画『レジェンド&バタフライ』は1/27全国公開。
初の海外公演となる舞台『猟銃』は3/16〜4/15、ニューヨークのBaryshnikov Arts Centerで。
撮影/伊藤彰紀 スタイリング/岡部美穂 ヘアメイク/下田英里 ネイル/川村倫子 文/大谷道子
大人のおしゃれ手帖2023年2月号より抜粋
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