「ホルモン補充療法」や「サプリメント」を味方につけて、更年期ライフを前向きに
他者からも左右され、加齢による影響でココロとカラダが変化していくもの。
大人世代はまさにゆらぎの”季節”です。
そんな季節を軽やかに過ごして、花のようにありのままに生きる知恵を身につける連載を始めます。
初回は産婦人科専門医の高尾美穂さんを訪ねました。
年齢とともに女性のカラダはどう変化するのか、それとともにココロはどう変わるのか。
まずは大人世代のココロとカラダを知るために、お話を伺いました。
お話を伺ったのは・・・
高尾美穂さん
産婦人科専門医・医学博士女性のための統合ヘルスクリニック、イーク表参道副院長。東京慈恵会医科大学大学院修了後、慈恵医大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。「西洋医学」をベースとしながらも、趣味が高じた「yoga」、アンチエイジング医学、漢方をはじめとした東洋医学、栄養学、スポーツ医学、それぞれを総合的多角的に用い、女性がより良く歳を重ねていけるよう、さまざまな角度からサポートしていくことをライフワークとしている。
更年期の「ゆらぎ」の 正体とは?
平井さん(以下、平):今日はありがとうございます。私も50代になり、体の不調を感じるようになりました。体が浮腫んだり、寝ている間に汗をかくようになったり、偏頭痛が起こったり。この歳になってやっと、自分の体に何が起きてるのか、気になるようになりました。体のことをもっと知れば、今の自分に合った生き方をしていけるんじゃないかと。
高尾先生(以下、高):でも、深刻に困ってまではいっていないような?
平:(笑)。そうですね。ご機嫌に生きているほうなので、更年期なのかな? と思い込んでいるだけなのかも。
高:いえいえ、更年期です! 間違いなく(笑)。更年期とは時期のことで、閉経を挟む、前後5年ずつとされています。だからどんな方でも経験するんです。その時期に、体が一時的にゆらぐ。それがまさに「不調」と皆さんが思う症状なんです。
平:ゆらぎはなぜ起こるんでしょう。
脳=心は若いまま! 体の衰えに気づかない
高:簡単に言うと、脳の働きと卵巣の働きが不一致を起こすから。女性ホルモン、主にエストロゲンは卵巣から作られますが、それは脳の指令によって行われます。
更年期に入ると卵巣の働きが悪くなりますが、脳はその変化に気がついていないんです。
いつも通り脳が卵巣に向かって「頑張ってエストロゲンを作れ」とお願いしても、卵巣は応えられない。そのことに脳はイライラしている。
そして脳の不調があらゆる体の不調につながるわけです。
それはなぜか。脳が自律神経の調整にも関わっているからなんですね。
自律神経の働きが減少すると、体温調整が難しくなる。
そのことであらわれるサインの代表が、汗のコントロールが効かなくなること、いわゆるホットフラッシュです。
平:だから汗をかくんですね。
高:でもこのゆらぎの時期はいつかは抜けるので、問題なのはゆらぎのあと。
エストロゲン=女性ホルモンが担ってくれていた働きができなくなる、できなくなり続ける。これが、私たちの閉経後の状態です。
「更年期終わったはずなのに調子が悪い」という理由はここにあるんですよ。
閉経後の女性の体は どんなふうに変化するの?
平:確かに閉経後のほうが心配です。ゆらいでいるときは「今は体が変化中なんだな」って思えるけど。
高:閉経後に起こる変化は、裏返して考えると、今までエストロゲンによって何をしてもらえていたかを知るということ。
エストロゲンが担ってくれていた働きのひとつは、肌の状態を良く、弾力性を保つこと。正確にいうと、コラーゲンの産生を促進するという働きです。
コラーゲンは、柱をイメージするといいと思います。
肌の内側に柱と柱で立体構造ができる。その内側に、水分などをとどめておけるというイメージ。この柱が維持できなくなるから、弾力性のある、赤ちゃんみたいなお肌ではなくなっちゃう。
このコラーゲンはほかにも、骨や血管などに関わってきます。
コラーゲンが減ることで血管が硬くなる症状=動脈硬化。
骨も、コラーゲンの低下で柱が維持できなくなり、ちょっとした力でも潰れるということが起きてくる。
平:骨粗鬆症もよく聞きますね。
高:骨折すると自立した生活が難しくなり、自分が行きたいところにも行けなくなるなど、健康寿命を迎えている、ということになります。
せっかく長生きできても、心も健康ではなくなってしまいますよね。
女性ホルモン=エストロゲンを 上手に補充するには?
平:つまり、エストロゲンが足りない、ということは補う必要があるということですよね。それはどうしたら補えるんでしょうか。自分の体内で補える方法はあるんでしょうか。
高:自律神経のリズムを整えるために、日中は運動して夜は休息するという生体リズムに沿ったサイクルを作るといったことは、もちろんご自身でもできるとは思うんです。
ただ、エストロゲンが担ってくれていた役割を生活習慣で復活させるということは、残念ながらほとんどできません。
エストロゲンが担っていた役割を何かで足すしかないんです。
いちばんシンプルな方法は、ホルモン補充療法と呼ばれている方法です。
今まで私たちの体で作っていたエストロゲンの約⅓を足すだけで、肌や骨、血管やコレステロール値、メンタルがいい状態を維持できるというデータが出ています。
平:でもホルモン治療が怖いという印象もあって…。
高:たとえば風邪薬とか痛み止めとかって、みんなまあまあ使いますよね。でもそれらは、体の中で作られるものじゃないですよね。私としてみたら、そういう薬は飲むのに、自分の体で作ってきたホルモンを摂れないのはなぜ? と思います。
平:実はコロナ禍になってから時間ができたので、婦人科に行って、自分がどのぐらい閉経に近づいているか、チェックしていただいたんです。そこで、週に1回のプラセンタを勧められたんですが、プラセンタはいかがですか?
高:プラセンタはそこまで期待できません(笑)。実はプラセンタは、西欧諸国には存在してないんですよ。
平:ええー!! 衝撃です(笑)。
高:需要が多いのは確かですが、効くか効かないかと聞かれたら、効くといえる理由がないですね。でも、更年期には「自分にいいことをする」という感覚が有効で、プラセボでも効果がある人が3割くらいいます。それくらい、不調や不安にちゃんと自分は対応できているという気持ちが大事なんですよ。
大豆イソフラボンをエクオールに変換できるかをチェックして
平:エストロゲンの補充は今からでも遅くないですか?
高:遅くないです! ただ、乳がんを経験された方や治療中の方は、この治療法を使えないので、エストロゲンに似た作用が期待できるものを摂るという方法を勧めています。そのひとつが大豆イソフラボン。大豆イソフラボンを摂ると腸内で作られる、エクオールという成分の化学構造式が、エストロゲンに似ているんです。
これは科学的な根拠が出ているんですね。ただし、エクオールを体内で変換できる人は2人にひとりと言われていて、尿検査でわかるのでしてみるといいと思います。
平:以前テストしてみたことがありました。結果は…忘れてしまった…。
高:体内で変換できなくても、エクオールまで代謝された状態のサプリメントを摂る方法もあります。ゆらぎの途中や閉経後のゆらぎが終わった方は、食品としておすすめできる時代になっています。
大製薬の「エクエル」は科学的根拠も十分に報告されています。
でも、サプリメントというのは基本的には「効かない」と考えないといけないもの。
効くのは「医薬品」という分類になります。
サプリメントは 「心の安定」のためと捉えて
高:医薬品になっている成分が、サプリメントで売られている場合は、「サプリメントでも効くかも」と言える。
たとえば、ビタミンDは、骨粗鬆症の治療薬として医薬品であり、サプリメントとして売られているビタミンDでも、ある程度効くと言われています。このように、医薬品になっている成分であれば、サプリメントとして売っているものでもある程度は効く。
でも、たとえばグルコサミンが医薬品になっているかというと、これはなってないわけで。その観点からは「効かない」んです。
プラセボの部分はありますが。
平:医薬品の成分配合かどうかを調べるようにしてみます。
高:サプリメントは、「自分にいいことをしている」という心の安定、気持ちの補充をするセルフケアのためのもの。
だから、まずおすすめしたいのはホルモン補充療法です。
平:更年期後の対策にはタイミングはありますか?
高:もちろんタイミングは大事で、たとえばホルモン補充療法をするなら、月経周期がばらつきはじめてから閉経後2年以内がひとつの目安。
この時期、いちばん骨量が減るので。でも、遅すぎるってことはありません。
運動習慣は 更年期のゆらぎを和らげる
平:睡眠、運動、生活習慣など心がけることはありますか?
高:ひとつは運動。更年期のゆらぎの時期に起こる不調に対して、ほぼすべてに効きます。運動中は汗をかき、その後は汗をかきにくくなる有酸素運動、肩こり、腰痛、というフィジカル的な悩みにはストレッチやエクササイズなどが効果があると言われています。
また、メンタル的な不調に関しても、運動習慣がある人のほうが、うつが軽いということもわかっているんですね。
もうひとつは睡眠。メンタルの不調を改善してくれます。
そして、最後はやっぱり、心持ちですよね。
いい気持ちで過ごせば。選ぶ言葉も優しくなり、またそれがいい心の循環を生むと思います。
平:本当、そうですよね。
一人で抱え込まず、 上手にまわりを頼ることも大事
高:そして、更年期のいちばんの問題って、女性が自分一人で解決しようと思ってることだと思うんです。セルフケアはもちろん大事です。
でも、もうひとつ言えることは、「自分だけではどうにもならない部分も結構あるよね」ということ。
たとえば、子育て中だったり、親の介護をしていたり、様々な立場や役割の中で生きていても、時間だけは本当の意味で平等なもの。
自分だけの時間を少しでも確保するために、調子が悪いときは「お母さんちょっと調子が悪い時期だから」って子どもに手伝いを頼んだっていいし、ご主人に「今日は出前でもいいかしら」って相談したっていい。
上手にまわりを頼って、自分のための時間を作り、自分のための生活スタイルにシフトする。これが更年期の不調にはとても大切なことです。
そして、体と心はその人自身のもので、パートナーのように近くにいる存在だからといって、理解してもらえるって思わないほうがいい。
伝えたいことを箇条書きできちんと伝える。「自分は今、体調が悪い。機嫌が悪いわけではない」って(笑)。
そうすれば当然だけど、伝わるんじゃないかなと思います。
平:相手に知ってもらえますよね。
高:そう! しかも、100%わかってもらおうなんて思っちゃいけないんです(笑)。
大体わかってくれればいい、ぐらいでいいんだと思う。
なので、自分のことをわかってもらう努力をすることは、更年期のすごく大事な、私たち側の課題だと思います。
平:私のお花の教室の生徒さんには同世代の人も多いんです。
「家では悶々としているけど、花を触っているとご機嫌になって帰れます」と言ってくださる方が多くて。
高:そして、「元気」っていうのも、私たちの世代って、無理に元気にしようとする人も多いですよね。
平:から元気、ですか。
更年期こそ本当に 自分が「今」したいことを優先して
高:そう。男女雇用機会均等法からあとの世代って、目の前にニンジンぶら下げられて、走ってきた世代なんですよね。
本心では困っていたとしても、元気でいよう、頑張ろうと取り組んできたから、このような世代は特に、自分が心で思ってることと、頭が判断することが別になってしまっているように思います。
そういう人たちが、今、ちょうど、閉経を迎えている。
更年期には無理に元気を出そうと思うことは逆効果。
頭で抑さえ込まず、本当に自分が今したいこと、今の気持ちのほうを大事にしてほしい時期だよ、と思います。
平:ありのままの自分を許す、受け入れるということですね。
高:たとえば、「もう休みたい」「眠りたい」「この場から離れたい」という心のサインがあるということは、体が休息を望んでいるということ。
それを頭で抑さえ込まず、自律神経に従って、体を調整することが大事なんです。母親として、妻としてとか、上司としてと思って、自分を抑え込むことなくです。
平:「なんとかしなきゃ」というのは辛いですよね。
高:体が願っていることと、頭で思うことが一致すると、とてもラクな人生になると思います。
平:私はもう一人の私に聞くようにしています。「これしなきゃ」って思っちゃったときは「本当にやりたい?」って、小さなかずみちゃんに聞いてみる。それでもやりたかったらやりますが、「NO」ならやらなくていいと思えるようになりました。
高:それでいいんですよ。
平:なかなかそれが、できない、頑張らなきゃっていう時期がずっとありましたね。
恋愛すれば 女性ホルモンは増加する?
平:最後に大人の恋愛について伺いたいのですが。歳を重ねると、恋愛関係に二の足を踏んだり、「大人なんだし」みたいな固定観念にとらわれがちです。
でも恋愛をすると、女性ホルモンが増加して更年期症状が軽いとも聞きますし。
実際のところどうなのかなと…。
高:正確なことを言うと、卵巣が女性ホルモンであるエストロゲンを分泌できる期間は、人によって大差ありません。
データ的には、日常的に性交渉がある人、たまにでもある人のほうが、全然ない人よりも卵巣機能が長めに続くという報告はありますが、それぐらいにすぎなくって。
性交渉を持っても、エストロゲンが分泌されるわけではないですし、世の中にいう「フェロモン」的なイメージは、エストロゲンと切り離して考えるべきだと思います。
恋をすることで分泌されるホルモンで注目すべきはドーパミン。
快感や多幸感、意欲に関係する脳内物質です。
「あの人と話ができるようになりたい」とか「LINE交換できたらいいな」とかそういう気持ちを持ったときに分泌されます。
そのあと、たとえばカップルになって手をつなぐとか触れ合いがあると出るのがオキシトシン。
幸せホルモンとも言われ、自律神経を整えたり、脳をストレスから守る効果があると言われています。
オキシトシンリッチな状態はいずれ、セロトニンリッチな状態に変化します。
セロトニンは精神を安定させる働きをする脳内物質。
つまり恋をする過程の中で満たされた気持ちを感じるようになるということ。
「あの人に会うときにこうしよう」とかケアすることによっていい状態が維持されるというだけで、エストロゲンの問題じゃないんですよね。
平:今から頑張ります(笑)。
高:性交渉というものも、最初は恋愛なわけでしょ?
次が生殖、子どもを持つための行為になる。そしていずれは、これが不要になったときに、その相手であるパートナーの役割が変わっていくわけです。
恋人から、夫婦、次に親。そして、また夫婦に戻る。
夫婦に戻って、はたと向き合ったときに、「ここからあと30年一緒に過ごしたいか」という気づきは、ものすごく多くのご夫婦にあるんです。
親としての役割が終わった時点で、次のステップに行き、恋愛とか性愛とかではない対象のパートナーを持つというのも全然ありだと思う。
心が満たされることで 幸福度は高まる
平:変な話、性交渉というのは、別に何歳までしていいとか、そういう話じゃないってことですね。
高:そうですね。基本的には性交渉って、妊娠、出産がいちばんの目的で、その前後はコミュニケーションだから。
だから、他で代替できるのであれば、なんだっていいと思います。
平:性交渉がなくなると、「女性として扱われてないから、大事にされてないんじゃないか」と感じてしまう人も多いと思うんです。
心と心でつながっていればいいってことですね。
高:悩みの正体は、「満たされていない」ということなんだと思う。
おそらく「気持ちが満たされてない」から、「性交渉がないことが、その表れ」だと思ってしまっているんだと思います。
平:やっぱりそうですね、心ですね。
高:誰かがいれば満たされるかというと、また別の問題なんですよ。
変な話、誰かがいたとしても、仕事で9割満たされている女性もいっぱいいるわけで。
しかも、満足感というのも人によって違うから。
どれくらいの容器を満たしたら、自分が満足って思えるか。私はその容器を大きくしすぎないほうがラクじゃないかなと思いますね。
足るを知る、じゃないですが、ほどほど幸せで、さらに幸せなことがあったら、より幸せみたいに思えたほうが、毎日をご機嫌に過ごせると思います。
セックスレスの相談は確かに多いですよ。
物理的に痛くてできないという場合には、エストロゲンを足すとずいぶん良くなります。
ずっと性交渉を持っていない間に、どんどん腟は伸縮しにくくなるんです。だから閉経して時間が経って久しぶりに性交渉にトライすると、痛いわけです。
閉経前後からエストロゲンを足しておくと、腟はほどほどに保てる。
様々な観点からもゆらぎの時期に入ったら、早めにエストロゲンを補充することをお勧めしますね。
平:いろんな可能性があるし!
高:そうそう!
聞き手・平井かずみさん
フラワースタイリスト。全国各地で花の教室やワークショップを開催。雑誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍し、 〝日常花〟を提案。「seed」と名付けた新しい試みとして、「すぐそばにある自然の営みに気づくことで、私たち自身の感性を育む」ことをテーマに、2020年の末には花のタブロイド「seed of life」を、21年の5月にはウェブサイトを(www.seed-of.com)を、2022年2月にアトリエ「皓-SIROI-」を立ち上げた。
撮影/宮濱祐美子 文・編集/竹田理紀[mineO-sha]
大人のおしゃれ手帖2023年4月号より抜粋
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この記事を書いた人
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