【特別インタビュー】吉本ばななさんに聞く
更年期、いま、これから
閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。英語では「The change of life」と表現します。
その言葉通り、新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしたらいいのか――。
今回は特別編として、吉本ばななさんが登場。
キュレーターの石田紀佳さんとばななさんが「更年期」について、語り合いました。
お話を伺ったのは・・・
吉本ばななさん
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1988年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、1989年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、『TUGUMI』で山本周五郎賞、1995年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年『ミトンとふびん』で谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版され、海外での受賞歴も多数。最新作に『はーばーらいと』(晶文社)がある。
公式Instagram:@bananayoshimoto2017
60歳を目前にして
6月末に新作『はーばーらいと』(晶文社)が刊行された。舞台は伊豆あたり。
吉本ばななさんの読者であれば、きっと彼女が20代で書いた小説『TUGUMI』を思い浮かべるだろう。
同じ地域を舞台にし、主人公は今回も小鳥の名前「ひばり」。ファンの中には、この30年の間に起きた出来事や、変わったこと、変わらないことを感じ、物語の世界にそれぞれの立場で入り込む人もいるかもしれない。
のちにバブルといわれた時代に小説家としてデビューし、ベストセラー作家となり、多忙を極める。
そして出版不況から電子書籍の普及、その間に恋愛、出産と育児、両親と義父の看取りを経て、今は子育てもほぼ終わり「もう人生はだいたい終わった」と言う。
けれども今なお作家として活躍する人の、その真意はいったいなんだろう?
60歳を目前にする吉本ばななさんに、「更年期」をキーワードに、若いころから現在までの体調や心境の一端をうかがった。
事務所にも自宅にも草花のしつらえは欠かさないばななさん。この日選んだのは、北米インディアンのハーブ、エキナセア。
「花びらのあるのと取ってあるのと両方いただきます。ラベンダーも欲しいけど、うちは猫ちゃんがいるからダメなのよ」
「私の仕事は健康管理が3割」
今回のインタビューを申し込んだとき「更年期障害はなかった」「更年期よりも老年期のほうが問題」だときっぱりと言われていた。
それでも、インタビュー時に、何かあったでしょうとしつこく閉経前後の出来事を聞くと、 「たしかに、急に体が火照って汗をかいたことはあったけど、別に汗をかいているだけだし」と、いわゆるホットフラッシュだったのかもしれないが、それを更年期障害とは受け止めていなかった。
ばななさんにとっては、若いころの多忙と若さゆえの無茶が招いた30代の心身の不調や、39歳での高齢出産にともなう体力の消耗、子宮筋腫の出血に比べれば、閉経前後の変化はなんてことはない。
それどころか、閉経後はかえって調子がよくなったくらいだ。
「更年期で不調になる人は、体に注意をはらってこなかったところがあると思う。例えば腹を出して体を冷やしていたり」
そういうばななさんも若いころは体に注意をはらえず、「死にそうになった」が、すんでのところで体を省みる暮らしにシフトできた。
「本当に忙しくて、体を壊しては入院して復帰して、また入院……。単純ヘルペスの酷いものなんだけど、抗ウイルス剤治療を入院するたびにして、こんなことを繰り返してはいけない、と思いました」。
そんな30代のころ、さまざまな健康法などを試していく中で、ロルフィングを知る。その人本来の身体能力や自然治癒力を引き出すボディーワークの一種である。
これが夫となる「お酒をほとんど飲まない」田畑浩良さんと知り合ったきっかけでもあった。
ばななさんはもともとお酒が好きで強かったが、その当時は悲惨ともいえる飲み方になっていたから、田畑さんとの出会いは人生の幸運な大転換だった。
この出会いがあったからこそ、続く壮絶な高齢出産を経ても、更年期を健やかに過ごせたように見受けられる。
今では「私の仕事の3割は健康管理」と体に注意を向けている。
もちろんそれは、パンクでロックな人らしく、一般常識的な早寝早起きで品行方正な暮らしをするということではない。
「お酒を飲んでいても、夜更かしをしても、健康管理はできます」
適量のお酒は体に合えば問題ないし、たくさん飲めば、飲まない日を作り、夜型だっていいし、たまに夜更かししても十分な睡眠を取ればいい。
要は自分の体の様子をよく観察して、どうしたらいいかを判断して、楽しく実行していくことのようだ。
「私は、感じるのは敏感ではないけど、観察するのが得意なの」
仕事のしすぎで体調を崩したが、小説家としての得意技を健康にも活かすようになったということか。
人間や森羅万象を観察して書く仕事の中に、自身の健康観察、管理が、あたりまえにある。ばななさんの話し振りからそんなプロ意識を感じた。
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