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大人のおしゃれ手帖
2025年1月号

2024年12月6日(金)発売
特別価格:1420円(税込)
表紙の人:原田知世さん

2025年1月号

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【インタビュー】「愛の方向性が変わった」
家族との関係を見つめ直した、かけがえのない時間

大人のおしゃれ手帖編集部

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。
その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか――。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

お話を伺ったのは・・・
髙見澤 淳子さん
1973年生まれ。37歳で長女、41歳で次女を出産。
39歳より「高見澤音楽室」を始め、ピアノと歌での創作、レッスンをする。
https://takamisawaongakusitsu.com/


夫婦の環境を見直すことに

夫婦で「高見澤音楽室」の活動をしている高見澤淳子さんは、2023年の春分の日、ピアノ弾き語りとしては初めてのアルバム『季節』の記念コンサートを開いた。

会場には、夫の克哉さんと共作のアナログ盤『日々き』の収録曲がBGMとして流された。
ピアノの弾き語りのアルバムも環境音楽のアナログ盤も、10年以上にわたって、歌い、弾き、すくいあげてきた音からなっている。

音楽によって出会った二人だった。
しかし、結婚を期に克哉さんは、自分の創作活動を趣味として位置づけ、平日は郊外の自宅から都心のオフィスまで往復4時間をかけて通勤する暮らしを選んだ。

「克哉さんは不平を言ったことはありませんでしたが、とても負担をかけていたんです。コロナ自粛期間中のある日、突然顔面麻痺になってしまって、それがよくわかりました」 

ルーティーンになっていた会社勤めのスタイルがコロナの流行で変化した。
家族と過ごす時間とゆとりのようなものが増えたことで、封印していた克哉さんの感受性の箱に隙間ができたのかもしれない。

「二人の初心に返ろうと思いました。出会ったときのことをもう一度やろうよ、私も自分の音楽をちゃんとやるから、と決意したら、ものすごいエネルギーが湧いて」 
淳子さんは弾き語りのアルバム制作のために動き出した。

音楽は夫婦の原点、そして家族の暮らしの中心にある。

20年前から二人で録りためていた音源に曲を追加して、2023年にリリースしたアナログ盤『日々き』のジャケットには地元の杉を使った。

すると、ちょうどそのころ、12年前に克哉さんがまとめていた音源が、韓国の音楽セレクトショップのバイヤーの耳にとまった。
それがきっかけで、曲を追加して、アナログ盤としてリリースすることにした。
そうして淳子さんが50歳になる年に、2枚のアルバムが生まれた。 

時を経て状況がさまざまに変化しても、二人の暮らしの中心には音楽があり続けている。

10年かかってやっと知った娘の個性

子育ては女性の人生に影響を与えるが、淳子さんの場合はことさらだった。
というのも、第一子のはなさんは生きていくのが難しいかもしれない、という状態で生まれてきたからだ。

演奏活動は休止した。

「出産には不安しかありませんでした。でも、歩けないかもしれないと言われていたのに歩けるようになって、ゆっくりと言葉も理解できるようになりました。
彼女と暮らすことで世界の感じ方がまったく変わったし、愛おしさが溢れ出る半面、どこかで娘に対して『何で?』という疑問もありました。でも、彼女が10歳になったときに、私ははなという人を、そのまま受け止められるようになりました」 

そんなはなさんは現在13歳になり、淳子さんは50歳になろうとしている。
「共感するということを言葉では知っていたけど、ようやく、はなはこういう人なんだと実感できるようになったんですね」 
はなさんとの10年の歳月で淳子さんも育っていたのだ。

更年期には恩恵しかない

はなさんが4歳のときには次女のなつさんが生まれた。

「次女はとても健康に生まれてきましたが、甘えん坊で5歳くらいまでおっぱいを吸っていたんです。でも、なつの出産は心身ともにとても楽で、もう一人かけがえのない宝物を受け取ったのに6年間くらい疲れがまったく取れなかったんですね。
その上、おっぱいまで吸われ続けて、本当にへとへとでした。そうしたらまるで、もうこれでまったく出ないよ!となつに言い聞かせるように、月経がぴたっとこなくなったんです」 

ちょっとしたケガが命取りになりかねない長女には目が離せないし、次女はくっつき虫だったので、淳子さんには10年近くひとりの時間がなかった。

「次女を生んでからどうしてこんなに疲れが取れなくて、太ってしまうんだろうと考えたのですが、体をひとりで思いっきり動かすことができなかったのが大きかったのかもしれません」 

出産後の不調と閉経によって、老化を意識するようになり、疲れがたまらない工夫をするようになった。食生活を見直し、夜更かしをせずに早起きになった。

「朝に思いっきり体を動かすのが私には必要なようです。朝一番に全速力で走っています」 

そして庭仕事。
「ずっと自然は好きでしたが、眺めているだけでした。小さいころから歯を磨くように弾いてきたピアノと、庭仕事も同じなんですね。日常のあたりまえのこととして、土や植物に触れるようになりました」 

月経のあるころは「女性ホルモンにふりまわされているかのように、精神的に不安定」だったという淳子さん。
生理前には気分が荒れたり暴食したりで、自分で自分が嫌になっていた。
月経前症候群だとわかっていても、コントロールができなく辛かった。

「まわりにも迷惑をかけていました。アップダウンにあらがえない20年でしたから、今はいつでも平常心でいられることにとても感謝しています」 

子どものころからのアレルギーも閉経とともに軽くなり、淳子さんにとって「今のところ更年期は恩恵しかない」そうだ。

愛の方向性が変わって

歌うこともピアノを弾くことも、淳子さんにとっては息をするように自然な営み。
「ピアノと声の音色で風の速さ、水や光のきらめき、心の実りや陰りを表わしてみたいといつも思っています。あなたとの間にこの音が響いて、楽しい時が柔らかく流れたら、それは本当にうれしいことです」。
人と音楽、そして日常の美しく心地よい関係を探求している。

「以前は愛されよう愛されようとしていたのかもしれません」 

しかしこのごろは、自分が人から褒められるよりも、相手を褒めて喜んでもらえることがとてもうれしい。
「自分の表現をしたいというよりも、音楽で人の役に立ちたい、と素直に思うようになりました」

30歳のころに音楽療法を学びはじめたときに予感していたことが、10年を2回過ごして、淳子さんの現実になっていた。
奏でる人が癒やされ、受け取る人も癒やされ、生かされていく音楽の可能性。

激しい感情をぶつけたり、誰かに聴かせようと演奏するのではなく、ただただ手を動かし、口ずさみ、音の生まれる瞬間を受け取り続ける。

激しく表すときを過ぎて、ときには気付かれないほどの静けさで、喜びを愛撫するような時代へと、淳子さんは体ごと変化しているのだろう。

〜私を支えるもの〜

毎日庭に下り立って、土や草花に触れる。

「今は春の盛りを過ぎたハルジオンの花やグリーンピースたちが、勢いづいたオルレアの花といっしょにいます」。
虫や鳥など、庭にやってくるイノチをそのまま受け入れている。

音楽会でのアンケートや手紙は掃除の途中やふっとできた時間に見返す大切なもの。
「紙そのものが好きだし、そこに書かれた言葉や絵を見ていると大切なことが思い出されたり、見つかったりします」

故郷の茨城の海は夏には毎年通っている大切な場所のひとつ。
淳子さんは、海中生物のように泳ぐそう。最近は原発の汚染水を心配しながら、18歳まで育ててくれた場所の時間やできごとを振り返ることも。


撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2023年8月号から抜粋
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