【直木賞】人間と動物の共存を描いた『ともぐい』が受賞!
河﨑秋子さん「農作業が恋しくなることはあります」
人間と動物はいかに共存すべきなのか―。読む人へと問いかけてくる『ともぐい』が第170回直木賞を受賞。
著者の河﨑秋子さんに、専業作家への道のりと作品への思いを伺いました。
酪農家・羊飼いとしての暮らしを経て、専業作家へ
むき出しの厳しい自然とともに生き、〝山の王者〟である熊とひとり対峙する猟師の生き様を描いた河﨑秋子さんの『ともぐい』。
動物たちの呼吸や温度、匂いまで生々しく伝わってくるリアルな描写は、北海道で生まれ育った河﨑さんならでは。
「私の実家は酪農家で、狩猟免許を持っている人が身近にいたり、私自身も鹿の解体を手伝っていたので、その経験も基になっています。さらに、昔の地元の人が書いた手記を読む機会があって。
熊に追いかけられて木に登ったり、おばあちゃんが熊に攻撃されながらも必死に撃退したり…。
壮絶な話が結構あるんですよね。それらを参考にしつつ、フィクションの部分を加えることによって、読む方に届きやすくするよう意識しました」
本作を含め、河﨑さんがデビュー以来、焦点を当ててきたのが、人間と自然、野生動物との関係や共存について。
「人間と他の動物の境目というか、同じところと違うところを見極めてみたい。人間は他の野生動物を慈しむ心がありますが、残念ながら人間以外の動物が人間を慈しんでくれることはほぼないわけですよね。それについて否定や肯定をするのではなく、物語という形ですくい取って読む人を刺激できれば、書き手としては本望だなと思っています」
以前は実家の酪農業の手伝いや羊の飼育をしながら、日中は家畜の世話、夜は執筆…というハードな生活を送ってきた河﨑さんですが、2019年には専業作家の道へ。
「兼業作家のときに比べると健康になって、寿命も延びたと思います(笑)。やはり作家として長く書き続けたいですし、加齢による自分の文章の変化というものも追求してみたかった。それに、家畜がいると365日世話をしないといけませんが、今は思い立ったときに遠くまで取材旅行へも行ける。それは自分の刺激にもなりますし、10年20年後に糧となって現れる気がします。
ただ、たまに農作業が恋しくなることはありますね。自分の育てた羊はとてもおいしいですし、隙あらばまた羊を飼いたいなと思います」
今後は自然や動物に限らず、多様なテーマに挑戦するのが目標。
「もちろん北海道の自然についても、まだまだ物語として広げられる題材はありますし、『これを書かなきゃ』と決めつけず、自分の幅を広げていきたいです」
『ともぐい』
河﨑秋子
¥1,925(新潮社)
舞台は明治後期の北海道。銃と一匹の犬だけを相棒に、狩猟をして生きてきた主人公・熊爪は、ミステリアスな少女との出会いやロシアとの戦争に向かう時代の変化の波に戸惑いながらも、生きる意味を求めて、熊との壮絶な対決へと自らを追い込んでいく。
撮影/白井裕介 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2024年1月号より抜粋
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