【本上まなみさんインタビュー】
「隣にいる人が困っていたら、いつでもぱっと動ける自分でありたい」
好奇心や行動力の原動力とは?
どんな変化も、丸ごと楽しめる自分でありたい
晴れやかな笑顔とともに、次の10年に向けて、新たな一歩を。創刊10周年を祝う花びらとともに、表紙を彩ってくれた本上まなみさん。
ご自身の10年は、東京から京都へと拠点を移し、基盤をつくっていく日々だったと振り返ります。
「ふたりめの子どもが生まれて、めまぐるしく過ぎてゆく10年だったような気がします。今日の撮影もそうですが、仕事では『いいものを作る』という目的のためにプロフェッショナルの皆さんと団結して取り組んで、達成感や充実感を味わうことができる。でも育児に関しては何が正解かわからないし、これで本当に合ってるのかな? と悩むことも多いんです。
正直、仕事をしてるほうが楽だと思うこともあるけど、そうした迷いも人間らしいというか。しんどいけど、5年後、10年後には『あのときはああだったね』と笑って振り返りたい。そういう願いも込めて動いてきたように思います」
京都に移ってからは、時間の流れもゆっくりとしたものに。普段の買い物ひとつとっても、東京に住んでいた頃とは違う選び方をするようになったそう。
「もともと個人商店が好きだったのですが、京都に引っ越してからは、コーヒーだったらここ、パンだったらここ……と、以前よりも小さなお付き合いが増えました。
野菜は近所の農家さんに買いに行くのですが、畑まで一緒に行って、その場で採ってもらうことも。『作っている人の顔が見える』ってすごく真っ当で贅沢なこと。ひとつのものができあがるまでに、どれだけ時間がかかって、どんな背景があるのか……。それを見ることで感謝の気持ちが生まれるし、生きることにきちんと向き合っていると実感できます」
この10年、30代から40代へと年を重ねるなかで、自身の心と体も変化。多くの読者世代と同じように、できないことが増えたり、無理が利かなくなったりするのを感じつつも、そこには本上さんなりの乗り越え方があるようです。
「もう前みたいに楽しめないんだな、と後ろ向きになるのではなく、むしろ倍の時間をかけてゆっくり楽しめばいいんじゃない? と考え方をシフトしたほうがいいのではと思います。私も体調に不安を覚えたり、体力が落ちてきたり、がっかりするような瞬間はあるけれど、それも生きてるってこと。その変化も丸ごと楽しめるようになりたいですね」
そう考えるきっかけをくれたのが、京都に移ったことでともに過ごす時間が増えたという、義理の母の存在でした。
「昨年、94歳で亡くなったのですが、とても凜とした前向きな人で、人間くさいところもあって。人がどうやって老いて、最期を迎えるのか。今後、私も辿っていくであろう道を近くで見せてもらえたのは、とてもありがたいことでした」
自分のためではなく、誰かのためにできることって何だろう?
この先の自分が、何を大事にして、どう生きていきたいか……。今後の生き方のヒントは、お義母さまをはじめ、ご近所さんや行きつけのお店の人々とのやり取りから得ることが多いそう。
「身のまわりには年を重ねてもなお、好奇心旺盛で素敵な人がたくさんいるんですよね。それぞれ大変なことを抱えながらも、自分のやるべきことはこれ、と決めて踏ん張っている。その姿はすごくカッコいいし、私もやるべきことをやっていかなきゃ、と励まされます。
自分のためではなく、誰かのためにできることって何だろう? と視点を変えることが、明日の行動につながるんじゃないでしょうか。これから10年、20年と人生はおそらく続いていくけど、隣にいる人が困っていたら、いつでもぱっと動ける自分でありたい。そのためにもまず、自分の心身が元気じゃないと、と思っています」
本上さんにとっては、大好きな「旅」もモチベーションを高めるための刺激に。
「旅番組の出演オファーをいただいたときも、行きたい場所をピックアップして、ここはどうですか? とプレゼンしています(笑)。昔から旅行好きの母にあちこち連れて行かれたからか、旅に出て新しいものを見たり、聞いたり、体験したりするのが好きなんですよね。
この冬も、仕事のロケで行った場所を家族にも見せたくて、10日間ほどかけて、車で南九州を回っていました。仕事でお世話になった方をまたすぐに訪ねて、あらためてお話ができるというのは、贅沢な楽しさですね」
ほかにも趣味の中国茶の産地巡り、前に習っていた金継ぎの再開、レギュラー出演している「newsおかえり」で共演している仲間たちとの味噌作り……と、まだまだやりたいことは尽きないという本上さん。
その好奇心や行動力のベースにあるのは、やはり人との〝縁〟のよう。
「子どもの頃は引っ込み思案で、今でも初対面の方と話すのは苦手なのですが、話を聞くのは好きなんです。社会学者の岸政彦さんが編集・監修された『大阪の生活史』『沖縄の生活史』というインタビュー集を読むのが最近の楽しみです。
一冊に100人超の人生が詰まっていて、笑っちゃったり涙が出たり、心揺さぶられることが多いのですが、どーんと迫力ある本の厚みに頼もしさもあって。よし私も頑張ろう、って思えるんです」
MANAMI HONJO
1975年、東京生まれ、大阪育ち。近年の出演作に映画『リバー、流れないでよ』、ドラマ『ブギウギ』『探偵ロマンス』など。ナレーターを務めるアニメ映画『すみっコぐらし』シリーズも好評。現在、『newsおかえり』(ABCテレビ)、『そこに山があるから』(BS朝日)などにレギュラー出演中。エッセイストとしても評価が高く、近著に『一泊なのにこの荷物!』(ミシマ社)など多数。文藝春秋では書評委員を務める。
本上さん着用:シャツ¥79,200、ワンピース¥99,000/ともにヴィンス(コロネット)、シューズ¥35,200/プレインピープル(プレインピープル青山)
撮影/浅井佳代子 スタイリング/池田奈加子 ヘアメイク/福沢京子 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖 2024年4月号より抜粋
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