神野三鈴さんエッセイ「あなたと手をつなぎたい」
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あなたと手をつなぎたい
日常生活のなかで、ちょっとご機嫌になれる小さなひとつひとつをお届けしたくて始めたこのエッセイだが、3年前に比べ、戦争の影がこんなにも色濃くなっているとは想像していなかった。
このままでは「なんでもない日常」がなによりの夢になってしまいかねない。
演劇やドラマ、たくさんの物語のなかで、戦争という愚かな人類の過ちを学び、微力ながらもこの身でも伝えられたらと願ってきたが、まるで過去の台本をなぞるように同じ構図で戦争が始まっていく状況に危機感を持っている。
なにより怖いのは「戦争反対」と言っただけで「お花畑だ」と非難される世界になったことだ。一体どうしたのだろう。普通の国民は戦争は嫌ですよ。
ニュースでは新しい法案の説明もされないまま、討論やジャッジなく結果だけが伝えられる。
バラエティ番組では自衛隊の内部や体験、武器の威力の迫力あるシーンがエンターテインメン
トのように流れてくる。
たくさんの人が危機感を感じて、デモなどで声をあげても、ニュースにならない。情報に操られ、騙されたと、あれだけ戦争経験者が語ってきたことを、みすみす繰り返すわけにはいかない。
今はSNSという文明の進化がある。
功罪問われているが、「進化」にするのは私たちの使い方にかかっていると思う。
流れてくるものを考えなく受け止めるのは楽だけれど、自分からいろいろ探しに行って広い視野を手に入れ、自分の頭と感性で考えなきゃと思う。
都合よく踊らされないために。
そんな状況のなかで、いままでとは「ご機嫌」の意味合いが少し違うが、確実に未来、人間に希望が持てることもある。
以前、ガザで亡くなったパレスチナ人の女性写真家、ファトマ・ハッスーナさんの映画をご紹介したが、同じ配給会社であるユナイテッドピープルが、ハマスに人質に取られたイスラエル人のドキュメンタリー映画を公開した。
必死で救出を試みるなかで、自国のイスラエル政府が自分たちの存在を宣伝に使い、ハマスへの憎しみを煽るために利用していることに気づき、彼らの混乱が浮き彫りになっていく。
愛する家族、祖国を盾に憎しみを助長させて、戦争を、報復を国民に続けさせているイスラエル政府の思惑を知るのだ。
彼らはもっと前の歴史の構造の歪みから考えていかなければならないことに気づく。受け入れるのがどんなに難しくても、パレスチナ人が本当の「敵」ではないということを。
そして、今年の3月25日、私は震えるほど心を大きく揺さぶられ、希望を見出したニュースに出合った。まだ寒さが厳しいローマの中心部でイスラエル人とパレスチナ人の母親たち(じゃない人も、男性も)が、「裸足の行進、母たちの平和への呼びかけ」として、すべての子どもに安全、尊厳、そして恐怖のない未来を望み、街を一緒に歩いたと。
裸足で歩くのは忍耐、痛みを表しているとのこと。気が遠くなるほど長い年月、憎しみ合うように教育されてきて、殺し合いをしていた者同士が手をつなぐ、許し合うことがどれほど難しいことか。
それでも連鎖を断ち切り、同じ望みを持つ人間として一緒に歩いていくのだ。
凍える足を引きずりながら歩く姿から、その覚悟が痛いほど伝わってきた。まったくニュースにされないだけで、実は2016年、10年も前から、小規模ながらヨルダン川の西側、ボーダーラインの近くで、すでに行われていたらしい。
イスラエルがガザにやっていることは間違っていると憤り、自発的にガザの人たちを守るために活動している人たちもたくさんいる。
国民が死んで、街が破壊され、生き残っても心が荒廃する戦争をなんで国家はしたがるのか、と改めて疑問が湧いてくる。
戦争ビジネスは、経営が破綻した会社(国)の狂気の悪手なのだろうか。
そういえば電車の中で、「武器を作っている企業○○の株は買いですね!」と当たり前のように話している人がいた。
宮澤喜一元首相が現役時代に「武器を売ってまで金儲けするほど落ちぶれてはいない」とおっしゃっていた。武器が人を殺すことを見てこられた方だからかもしれないが、人間の品性が感じられて日本人として誇らしかった。
時代に左右されない矜持だと思う。
もちろん、いろんな考えがあると思うが、戦場の真っ只中でそれを取り戻そうとしている人たちがいることが、いまの私の希望だ。
微力でも私たちが手をつないでいたら、少しは未来の「進化」の礎にはなるかもしれない。
噂で判断しない。許すということ。
恋人や家族、職場で散々トレーニングを積んだ私たちだ。
きっとやれると思うのだけれど。

理解が難しいことも、「違うこと」が自分を、日本を知っていくことにつながってきたように思う。
MISUZU KANNO
神奈川県鎌倉市出身。第47回紀伊國屋演劇賞個人賞、第27回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。代表作に舞台『メアリー・ステュアート』『組曲虐殺』、映画『37セカンズ』『TOKYOタクシー』、ドラマ『アンチヒーロー』『あんぱん』『時計館の殺人』(Hulu)など。映画『平行と垂直』が8月28日公開予定。
text: Misuzu Kanno photograph: Isao Hashinoki[nomadica] styling: Kei Taguchi hair & make-up: Yumi Narai
大人のおしゃれ手帖2026年7月号より抜粋
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この記事を書いた人
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