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大人のおしゃれ手帖 12月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2024年12月号

2024年11月7日(木)発売
特別価格:1650円(税込)
表紙の人:天海祐希さん

2024年12月号

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【スペシャルインタビュー】後藤由紀子さん
「一日一生。流れに乗ってここまで来ました」

【スペシャルインタビュー】後藤由紀子さん 「一日一生。流れに乗ってここまで来ました」

「私、決断力だけはあるんです」と静岡県沼津市で雑貨店「hal」を営む後藤由紀子さん。
halの立ち上げから今年で20年。
憧れて上京した東京時代から50代の今まで、そしてこれからをお伺いしました。

高校卒業後に上京。憧れの店でセンスを磨く

2003年、沼津にオープンした生活雑貨の店「hal」。
今年で20周年を迎えた、この店の原点は、店主である後藤由紀子さんの上京時まで遡ります。

地元である沼津の高校を卒業し、憧れていた東京で就職。
働きながらバンタンデザイン研究所へ通い、ファッションコーディネーター科とスタイリスト科の夜間コースを受講します。

「行動力と決断力はあるほう。卒業したら絶対に東京に行く! と決め、迷うことはありませんでしたね。入学金や授業料もボーナスや積み立てたお給料を充てました」

「どんなにつまらなくても、3年はガマンするように」という両親の教えを守り、最初の会社で3年働いた後は、以前から興味のあった雑貨店へ転職。

「ファーマーズテーブル」をはじめとするショップで感性とセンスを磨き、充実した日々を送っていたものの、失恋を機に沼津へと帰郷することに。
その後は働いていた地元のカフェで現在の夫と運命的な出会いを果たし、2人の子どもを授かります。

「お母さんになる、というのは子どもの頃からの夢でした。そしてもうひとつ叶えたかったのが、自分のお店を持つこと。料理が好きだったので、いつか自分の作ったメニューを出すカフェを始めたいと考えていました」

この日は「フォグリネンワーク」とのコラボで生まれた新作のワンピースにユニクロのカーディガン、ダンスコの靴を合わせたコーデ。
ワンピースは、4年間でのべ3,000枚を売り上げるヒット作になった。

病気を機に、「明日が来るとは限らない」と実感

子どもが中学生になって、育児の手が離れたらお店を開こうと計画していた後藤さんでしたが、あるとき髄ずい膜まく炎えんを患ったのを機に、「明日が必ず来るとは限らない」と痛感。

「いつか」ではなく、やりたいことは今すぐ実行に移さなくては、と決意します。
「今日一日を一生のように生きる……という意味の『一日一生』が私のキーワード。
今もそうですが、3年後に自分がどんな状況にいるか、元気でいられるかはわからない。
何ごとも先延ばしにしないで、行きたい場所には行く、会いたい人には会いに行くと決めています」 

目標を前倒しして店を開くにしても、子どもが小さいうちはやむを得ない臨時休業で仕入れた食材を無駄にしてしまう可能性も高い。
そう考えた後藤さんは、当初予定していたカフェではなく雑貨店を開くことに。

沼津駅からほど近い商店街に理想の物件も見つけ、ついに「hal」をオープン。

「お店を始めるとき、母には大反対されたんです。
『一回でも赤字になったら辞めるので、半年間だけでもやらせてほしい』と伝えて、何とか説得しました。その後も約束を守っていて、今も赤字を出したことはないんですよ。
といっても、開店直後は身内以外のお客さんはぜんぜん来なくて。
地元の友だちが、『halっていうお店ができたんだよ、まだ行ってないの?』と周囲に口コミで広めてくれたおかげで、少しずつお客様にご来店ただけるようになりました。
その友だちには、足を向けて寝られないほど感謝しています」

「hal」で取り扱っているのは、すべて後藤さん自身が実際に使って、心からいいと感じられるものだけ。
作り手には、東京時代に知り合った仲間も多いそう。

「すべてご縁でつながっている人たちばかりで、20代からの友人も多いんです。私は特殊なケースだと思うので、これから雑貨店を始めたい人が参考になるようなハウツー本は書けなくて。
自分にビジネスセンスがあるとも思いませんし、20年続けられてきたのは、本当にまわりの人たちのおかげだと思います。
沼津という地方でお店を営む上で心がけているのは、わざわざ足を運んでくれるお客さんを大切にすること。『一度行ってみたかったんです』と言って来店してくれた方が、もう一度来てくれたときは、本当に嬉しいんです。
中にはお盆の帰省のたびに立ち寄ってくれる方、伊豆旅行のついでに足を延ばしてくれる方も。
20年も続けていると、独身だった方が結婚して、家族ができて、子どももどんどん成長して……。お客様も親族のような感覚ですね」 

20年を迎えた今年は、今までの経緯を振り返ったエッセイ集『雑貨と私』も刊行。

「私にとってはちょうど20冊目となる本で、お店も20周年。本にするならこのタイミングがちょうどいいと考えました。18歳で上京して、24歳で地元に戻って、結婚して……。
人生っていろいろあるけど、おもしろいものですね。
いいときもあれば悪いときもあって、振り返ってみれば結果オーライ。20代で失恋していなければ、そのまま東京で違う仕事をしていて、『hal』も開店していなかったかもしれない。人生に『たられば』はないけど、転んでも何かしら得るものはあるのだと思います」

後藤さんのこれまでの歩みを振り返ったエッセイ集『雑貨と私』(ミルブックス)。
装画は後藤さんが長年、憧れ続けてきたという上田三根子さんです。

奥原宿で「キットギャラリー」を運営する、ミュージシャンの松田“チャーベ”岳二さんは、上京時に知り合った30年来の友人。
「結婚して子どもができてからも、昔のように仲良くできるのが嬉しい。halの店内でかかっている音楽も、彼に選曲してもらったんです」

halは木の看板が目印

【スペシャルインタビュー】後藤由紀子さん 「一日一生。流れに乗ってここまで来ました」

開店以来、同じ場所で営業している「hal」。
「ここを去るのは店を辞めるとき」。

「開店するときに夫が作ってくれた看板を今も大切に使っています」

後藤さんが選び抜いた器や衣類が並ぶ店内。

雑貨店で働いていた東京時代

東京時代に勤めていた表参道の「ファーマーズテーブル」。
店主の石川博子さん、スタッフの谷正子さんと一緒に。

22歳の頃、下北沢のクラブで。
音楽好きの友人が多く、後に「渋谷系」として活躍するミュージシャンも身近な存在だったそう。

こちらも上京後、文房具店で働いていた頃。「当時はボーダーばかり着ていました」

家族に支えられて

父と実家の庭で。「私は幼い頃からお父さん子。朗らかな父は今も理想の人」

庭師のご主人とは、後藤さんのほうから“猛烈アタック”してお付き合いが始まり、数年後に結婚。

母になることも、後藤さんの長年の夢。念願叶って2人の子どもにも恵まれました。

今後は頑張りすぎる人の心を軽くできる存在に

50代になり、子どもたちが巣立った今は、引き続き「hal」を続けつつも、夫婦で過ごす時間や、自分の趣味も大切にするように。

「夫とは2人で外食に行ったり、遠出をしたり。先々週は神戸の北野ホテルに泊まって“世界一の朝食”を楽しんできました。
まだまだ勉強中ですが、趣味の着付けもこれから深めていきたいことのひとつです。
ただ、やりたいことをやるには、健康が第一。だから運動もしなきゃいけないんですけど、じっとしているのが好きで……(笑)。暮らしの中に運動を組み込むのが、これからの課題です」 

仕事面では、YouTubeのチャンネルを始めたり、音声コンテンツの「voicy」で発信したり……といった新しいチャレンジも。

「“人生なりゆき”と思っているので、お話をいただいたら、まずは流れに乗ってみるんです。ただし、嘘はつきたくないので、自分ができない分野は、正直にお断りするようにしています。
“丁寧な暮らし”もそのひとつ。一時期は、丁寧な暮らしをテーマにした本を作りませんか? とよく声をかけていただきましたが、私はぜんぜん、雑なので(笑)。
家事は毎日のことなので『70点くらいできれば十分』と思っています。
でも世の中には、妻として、母として、社会人として、『こうあらねばならない』という気持ちでがんじがらめになっている真面目な人は多いですよね。
私も若い頃はそういう鎧で自分を固めていたけど、それをひとつずつはがしていったら、今はとても楽です。
私自身がいろんな大人にお世話になってきたから、今後はその恩返しもしたい。
真面目すぎる人たちの背中をさすってあげて、『そんなに頑張らなくてもいいんだよ』と伝えていきたいです」

【スペシャルインタビュー】後藤由紀子さん 「一日一生。流れに乗ってここまで来ました」

hal

静岡県沼津市添地町124
TEL:055-963-2556
火・水曜定休
営業 10:30 ~16:00


撮影/白井裕介 文/工藤花衣

※大人のおしゃれ手帖2023年6月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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