【インタビュー】吉田羊さん
「着物に触れることで育まれる知恵、それが人生を楽しくしてくれました」(大人のおしゃれ手帖8月号)
着物に触れることで育まれる知恵、それが人生を楽しくしてくれました
緑溢れる自然の中、陽の光を浴びながら、爽やかなワンピースの装いで表紙を飾ってくれた吉田羊さん。一転、砂浜でカモメ柄の着物を着て、夏の喜びを表現してくれました。
この2枚は実は同じ日に撮影されたもの。表紙撮影のロケ地から車を40分ほど走らせたところに海があるとわかり、「着物を着て砂浜を歩いてみたい!」と羊さんが発案。
私物の着物でコーディネートをし、ロケバス内で着付けを済ませ、弾むように砂浜へ。
そのくらい、着物のおしゃれは羊さんにとって日常なのです。
この赤い着物の写真も収録されているフォトエッセイ集『ヒツジヒツジ』が7月7日に発売となりました。
企画が立ち上がったのは1年半前のこと。
「俳優・吉田羊を解剖する」ことをテーマに企画され、羊さんの「おしゃれ=着物」、「日々を楽しむ=遊び心」、「心を整える=暮らし」についてが、写真とエッセイで綴られているといいます。
そして、すべてのコーディネートを羊さん本人が担当し、約9か月にわたり、日本の四季のなか、さまざまな日常のシーンで撮影されました。
「私自身の毎日を楽しくしてくれた着物文化への感謝も込めて、本作りにあたり、着物のハードルを下げたかったことが第一にありましたね。普段の装いの延長線上に着物もありだよって。
私もかつては着物といえば『難しい』という印象でしたが、20代の頃に着物に親しむ友人から『着物はもともと日本人にとって普段着だよ!』と教えてもらってからハードルが下がりました。
いわゆる専用の道具はなくても、家にあるもので代用できることも知って、あ、着物って意外と身近で楽しいものかもしれないと思えた。
そこからはまっていったんです。だから今では普通の日にも楽しんでいます。
特にアンティーク着物は自由度が高いですし、一点ものが多いので自分だけのスタイルが簡単に確立できる。
本の中でもアンティーク着物にブーツを合わせたり、衿からタートルニットをのぞかせたり、帯締めの代わりにベルトを使ったり楽しんでます。
え?こんなに自由でいいんだと思っていただけたら嬉しいですね」。
着物の歴史を紐解くと、日常着として柄や帯の結び方を庶民が楽しむようになったのは江戸時代と言われています。
身分の違いを示すため、庶民には「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」と呼ばれる色しか許されなかったそうですが、だからこそ柄や帯の結び方などの組み合わせでおしゃれを楽しむようになったのだとか。
制限されたなかで、いかに工夫や知恵を使って楽しむか。
着物文化に宿る遊び心は、そのまま人生を楽しむ哲学にも繋がると羊さん。
丁寧に作られたものだからこそ、また受け継いでいくことができる
「四季を先取りする遊び心はもちろん、例えば帯と柄の合わせで、自分の中で物語を作ることもあります。魚の柄の着物に白鷺の帯で、実は獲物を狙う鳥というスリリングさをコーディネートに忍ばせるとかね。
その日会う人、行く場所に合わせて装いをコーディネートする楽しさも着物から学んだような気がします。
着物は着付けだけでなく、基本的な決まりごともありトータルで頭も使うし、小物も揃えるし、洋服と比べると準備に時間がかかるのは確か。でもだからこそ、着物を着て行くと相手は無条件に喜んでくださる。
相手を大切に思っているという自分の気持ちを、着物はわかりやすく伝えるツールでもあるからだと思います。
基本を知れば崩し方もわかるし、自分らしさも表現できる。はまる理由はそこにもある気がします」。
遊び心とは、ある程度「型」を知っているからこそ表せる配慮。
歳を重ねたからこそ表現できる心の余裕でもあります。
SNSはもちろん、さまざまなメディアで垣間見られる羊さんのユーモア溢れる言葉選びやセンス、そして人への優しさは、着物を嗜むことからも育まれたのかもしれません。
本のなかでも、純粋におしゃれを楽しむ気持ちから、次世代に受け継いでいく気持ちの変化までエッセイに描かれていますが、まさに大人世代のこれからの心持ちを教えてくれるよう。
「エッセイでは自宅の様子も少しだけ紹介していますが、生活のなかでも古いものが好きで。このものは私の知らない何かを見てきたんだなと想像したり、その昔の誰かと時代を超えて同じものを見ているということに、異様に興奮するんです(笑)。
アンティーク着物で今も着られるものは、誰かが大切に手入れし着続けてきた証。
着物をリメイクして作られた小物や帯などもあります。丁寧に作られたものだからこそ、また受け継いでいくことができる、まさにサスティナブルな存在だと思うんです。
そんなことも含めて、この本を見ながら着物の魅力も再発見していただいて、兎にも角にもそんな毎日って楽しそうと思っていただけたら本望です」
YOH YOSHIDA
2月3日生まれ、福岡県久留米市出身。小劇場を中心に活動後、TV・映画などの映像へと活動の幅を広げる。2007年『愛の迷宮』で連ドラデビュー、2014年には『HERO』でクールな女性検事を演じ注目を集める。映画『ビリギャル』では第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を、2021年には舞台『ジュリアス・シーザー』で第56回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。現在は、映画・ドラマ・舞台・CM・ナレーションと幅広く活動。2022年には俳優デビュー25周年を迎えた。また、雑誌連載をまとめた、食にまつわるエッセイ『ヒツジメシ』(講談社)を発行。
撮影/枦木 功(nomadica) スタイリング/吉田 羊 着付け/石山 美津江 ヘアメイク/井手真紗子 文/竹田理紀(mineO-sha)
大人のおしゃれ手帖2023年8月号より抜粋
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