【インタビュー】髙砂雅美さん
「見ようとしないと見えないものがある」
身近な自然を感じる、都会での暮らし
閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。英語では更年期を「The change of life」と表現します。その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。
今回お話を伺ったのは・・・
髙砂雅美さん
1963年生まれ。出産後は自然写真家の夫の仕事をサポート、環境問題に興味を持つ。2007年から自宅で食や文化を通した国際交流を行う。ゴミ削減のためのコンポストや、そのコンポストを使った発電や蓄電、また、その実用化を模索しながら、都市でもできる持続可能なライフスタイルを目指して活動中。
人間も大自然の一部
2011年の東日本大震災で髙砂雅美さんの夫の故郷、石巻も壊滅的な被害にあった。
「義父は震災の数日前にガンの手術で退院したばかりだったのに、夫婦で壊れた家の2階で暮らしていました。二人ともすごく我慢強く、ずっと大丈夫と言うんですよ。実際は全然大丈夫ではないのに。なんとか説得して東京に来てもらってしばらく同居しました」
都内の雅美さん家族の家は震災支援の拠点になり、多くの人の厚意が集まった。当時、雅美さんは48歳。
「友人知人、見知らぬ人たちがこんなに応援してくださって感謝する日々でした。でもそれと同時に、被災した人はもちろん応援する人たちも大変なのに、自分も大変だとは言えない、という状態が続きました」
心身ともに疲労して、気持ちが塞ぎ、悲しくてたまらない。やる気が出ない……。雅美さんは自力で回復しようとしたがうまくいかず、同じような経験をした友人から、「内側から開けようとしても、外からしか開かない窓があるのよ」と心療内科を勧められた。
素晴らしい医師にも出会えたが、病名をつけられ薬の処方をされるのが、どうも腑に落ちない。そんな頃に近所の食料品店で、東城百合子さんの著書『自然療法』と出合う。
その本の「うつ」の項に「賑やかな場所を2時間以上歩く」という療法を見つけ、雅美さんは実践した。うつ気味の時はなるべく人混みを避けがちだが、まったく逆の「人混み療法」である。
「うちから渋谷のスクランブル交差点まで歩いて帰ってくるとちょうど2時間くらいなんです。それを夜の散歩の日課にしました。人も自然の一部だから、人に癒やされるということがあるのだと実感しました」
問題点を可視化して受け止める
もともと体が丈夫ではなく、自分より他者に気持ちが向かいがちな雅美さんは、更年期ゆえに具合が悪くなっているとは思っていなかった。
「でも震災後の一連の不調は、震災のストレスに加えて、変化しつつあったホルモンバランスと関係していたのかもしれませんね。更年期にかかわらず、日本の女性は我慢をすることが当たり前だと思いがち。娘をはじめとするこれからの人たちには、もっと自分を客観視して、それを外に出してもらいたいです」
今では雅美さんは、自分の心身の様子を家族に伝えるようにしている。また、問題点を出す、さらには可視化するというのが雅美さんの得意技となった。
「コロナ禍の自粛期間中にちょうど閉経になりました。すんなりなくなって、とくに不調はありませんでしたが、撮影で1年の半分くらいは家にいなかった夫が、ずっと家にいて。結婚以来の初めての体験で戸惑いました(笑)」
そこで雅美さんは、夫の「生態写真」の記録を撮り始めた。 「歯を磨いている時とか何気ない姿を撮るんですが、ああ、こういう動物なんだな、とおもしろく見ることができました。夫は体が丈夫でわりとのん気で、私とは真逆なんですが、写真を通すことで、存在を丸ごと受け止められました」
こういう一見バカバカしいことが「心に効く」のだという。
「バカじゃない?って言われるようなことが好きみたい」と雅美さんはいたずらっ子のように笑って、こっそりと夫の生態写真記録を見せてくれた。
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