【群ようこさん】マンションでひとり暮らしをしている55歳のサチコを描く
「何歳からでも新しいことは始められる」
群ようこさんの新作小説で描かれるのは55歳にして人生をリスタートした、主人公・サチコのささやかな冒険。
その姿に込めた思いや、ご自身が今、夢中になっていることについて伺いました。
何歳からでも新しいことは始められる
おっとりとして控えめ、本さえ読んでいれば幸せ―。
新作『サチコ』の主人公は、これまで群ようこさんが描いてきたアクティブで自立した女性たちとは、少し異なる人物像です。
「今作では、今までと違うタイプの人を書いてみたくなって。正直に言うと、サチコのように生活に恵まれていて、自分から動かなくても物事が何となくうまく運んでいくような人には、昔はあまりいい印象を持てなかったんですよね。そんなに呑気でいいのかしら……?と思ってしまって。若い頃は、自分と同じペースで頑張っている人に親近感を覚えるものですから」
そんな群さんは、年を重ねるにつれて考え方に変化が。
「昔よりはいろいろなことが見えてきました。傍からは幸せそうに見える人も、本人なりに悩みがあるはず。書くことを通じて、そうした人の人生を追体験したかったんです」
自身とはあまり接点がないタイプだけに、キャラクターを作っていく過程は新鮮だったそう。
「こんなときサチコならどう考えて、どう動くのかな……と。想像の余地があって、大変でしたけど、面白かったです」受け身で生きてきたサチコは、55歳で会社を辞め、食堂のアルバイトという未知の世界へ飛び込むことに。
慣れない仕事や人との関わりの中で変化していく姿に、同世代の読者こそ、エールを送りたくなるはず。
「サチコのように初めてのことに挑戦するのは大変ですし、我慢しなければいけないことも多い。でも、やりたいことがあるなら、考えているよりもまずは始めた方がいいと思います。自分に合わないと感じたら、すぐに辞めたっていいんですから」
そんな群さん自身が、近年始めたことのひとつが、茶道です。
「今は身軽になりたくて、少しずつものを減らしているところなのに、お茶の教則本はどんどん増えてしまって。4時間半のお稽古中はずっと集中しているので、終わる頃には体重が1キロも減るんですよ」
茶道を始めてからは、日常の所作にも変化があったそう。
「ひとり暮らしだと、つい動きも雑になりがちだけど、最近は必ず両手でものを持つようになって。所作だけでなく、書や和歌のこと、季節のお花……と覚えることが多いけれど、いい刺激になっています」
『サチコ』
群ようこ
¥1,870(幻冬舎)
主人公は両親が残したマンションでひとり暮らしをしている55歳のサチコ。勤務先を早期退職し、近所の「食堂キング」でアルバイトを始めたサチコは、店主夫婦や常連客に囲まれる中で少しずつ新しい世界に触れていく。
やがて店主の腰痛により閉店の危機が訪れ―。
〈執筆のお供〉
書き心地が柔らかい「8B」の鉛筆で推敲

一般的な鉛筆より太目なので、専用の鉛筆削りを。
〈私の好きなもの〉
着物にも洋装にも合う思い出のリング

「カルティエのトリニティは2冊目の本の印税で買ったもの。リサ・ラーソンの反射材はバッグにつけています」
Photograph: Miho Kakuta text: Hanae Kudo
大人のおしゃれ手帖2026年5月号より抜粋
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