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大人のおしゃれ手帖 5月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2024年5月号

2024年4月6日(土)発売
特別価格:1360円(税込)
表紙の人:南果歩さん

2024年5月号

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大人の試写室 今月の1本 『FLEE フリー』

アフガニスタンから逃れた難民の青年の実話を描く。
安住の地を
求める人の叫びをすくい取る、今こそ観るべきアニメーション。
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン 製作総指揮:リズ・アーメッド、ニコライ・コスター=ワルドー/新宿バルト9ほかにて公開

この過酷な「現実」は、今この瞬間も起こっている

ひとりの青年の真実の物語をアニメーションで描いたこの映画を観終わったとき、彼が辿ってきた道のりのあまりの険しさに気が遠くなり、動けなくなるような感覚に陥った。

主人公はアフガニスタンで生まれ育ったアミン。幼い頃に父親がタリバンによって連行され、残された家族は手を取り合って祖国からの脱出を試みる。

家族と離れ離れになりながらもモスクワからデンマークへと亡命し、アミンは研究者として働くようになる。そんな彼が高校時代からの友人である映画監督に、これまでの人生について告白するスタイルで映画は進んでいく。

状況によってアニメーションのタッチを変え、当時のニュース映像も挿入しながら観客をアミンの物語に引き込んでいく作品を完成させたのは、デンマークを拠点に活躍するヨナス・ポヘール・ラスムセン監督。

ユダヤ人の家庭に生まれた監督は迫害から逃れてロシアを離れた祖先を持ち、タイトルでもある〝FLEE=逃げる〟こと、そして〝転居〟は彼にとって重要なテーマなのだという。

だからこそアミンの人生を、遠い国の誰かの物語ではなく、自分の物語として描くことができたのだろう。この映画で監督は、国家によって、無関心によって、人が人として生きる権利や尊厳を奪われる残酷な瞬間を幾度となく描き出した。

今日もニュースでは現在のロシアとウクライナの状況が伝えられ、世界のどこかにアミンのような人たちがいる理不尽な現実が報道されている。居場所を求める人たちのために、できることは何か。まずは現実を知ることの大切さを感じさせてくれるドキュメンタリーだ。

ここを見て!

今年のアカデミー賞ではドキュメンタリー賞候補にも

ドキュメンタリーでありながらアニメーションとして製作されたのは、登場人物が特定されると危険が迫るという理由から。アミンという名前も仮名が使われている。今年のアカデミー賞では、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門にノミネートされる快挙を果たした。


もう2本!

『メタモルフォーゼの縁側』

内気な女子高生のうららの趣味はBL漫画を読むこと。彼女がアルバイトをする書店でBL漫画を手にした75歳の雪は、初めて知った世界に夢中になる。同じ推しを見つけた年齢の違うふたりがおしゃべりをしながら、“好き”という気持ちでつながっていく物語。思いがけないごほうびのような出会いによって背中を押され、新しい一歩を踏み出すふたりの笑顔がまぶしい。

監督:狩山俊輔 出演:芦田愛菜、宮本信子、高橋恭平、古川琴音/TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開

『三姉妹』

反抗的な娘を育てながら小さな花屋を営む長女。敬虔なキリスト教信者だが夫の裏切りにあう次女。劇作家としてスランプに陥っている三女。それぞれに笑顔、ポーカーフェイス、お酒を鎧にして自分を守っている三姉妹が、父の誕生会に集まることになる。暴力の犠牲となった女たちの魂の叫びを、ムン・ソリをはじめとする名女優たちが体現する人間ドラマ。

監督:イ・スンウォン 出演:ムン・ソリ、キム・ソニョン、チャン・ユンジュ/ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開


選&文= 細谷美香
雑誌、新聞を中心に映画紹介やインタビューなどを担当。
青春映画やラブコメディ、日本の古い名画を愛するアラフィフのライター。

大人のおしゃれ手帖2022年7月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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