禅僧・藤田一照さんに学ぶ
〝執着〟を捨てれば心がラクになる
心も体もゆらぐ50代。コロナ時代にあって、健康や人間関係、将来の不安などさまざまな不安を抱えています。禅の教えから、心を調えるためのヒントをアメリカでも禅を指導した経験をもつ藤田一照さんにお伺いします。
教えてくれたのは・・・
曹洞宗僧侶
藤田一照さん
東京大学大学院を中途退学し、禅道場に入山、曹洞宗僧侶に。1987年渡米し、禅の指導、普及に従事する。2005年に帰国し、2010~18年、曹洞宗国際センター所長を務める。著書は『ブッダが教える愉快な生き方』など。
「幸せ」の方程式 この2つの方程式が心を調えるカギ
これさえなければ!の抵抗が苦しみのはじまり
東京大学大学院で心理学を学んだ後、曹洞宗僧侶となった藤田一照さん。17年以上にわたり米国の禅寺で暮らし、フェイスブックなどの大手企業で禅を指導するという、ユニークな経歴をお持ちです。その経験に培われた独自の視点で、仏教をわかりやすく説いている藤田さんに、「心を調える秘訣」を尋ねると、2つの方程式を教えてくれました。
「幸せ=快感、苦しみ=痛みと思う人も多いでしょうが、 〝幸せ〟と〝苦しみ〟は、結果として私たちの心の中に起きるもの。一方、〝快感〟と〝痛み〟は、人生につきものの避けられない出来事であり、受け入れるしかありません。そして、〝幸せ〟は〝快感〟と〝執着〟の割り算、〝苦しみ(不幸)〟は〝痛み〟と〝抵抗〟の掛け算で成り立ち、〝執着〟や〝抵抗〟の度合いで大幅に増減してしまうのです」
例えば、〝快感〟に対して、「もっと欲しい、独り占めしたい」などの執着心が高まると、残念ながら〝幸せ〟は割り算されて減ってしまいます。同様に、〝苦しみ〟は、起こってしまった〝痛み〟に対し、「認めたくない、無いものにしたい」という抵抗心が高まることで掛け算され、増えてしまうのです。
「人は、本能的に欲しいものには近づいて手に入れようとし、嫌なものからは逃げて無いものにしようとします。〝執着〟も〝抵抗〟も、生き物が、生命を維持するため生まれながらにして、備わっているものなんです」。
中でも、〝抵抗〟には3パターンがあって3つのF(Freeze〈フリーズ〉=固まる、Flight〈フライト〉=逃げる、Fight〈ファイト〉=戦う)と呼ぶのだとか。「多くの人は、苦しみを感じたとき、〝痛み〟と〝抵抗〟の区別がつかず、混沌状態に陥ります。そして、〝痛み〟を少しでも減らそうとして〝抵抗〟を上げ、結果、〝苦しみ〟を増してしまうわけです。しかし、〝執着〟も〝抵抗〟も自分次第で上げ下げができるもの。つまり、〝執着〟と〝抵抗〟を減らす術を学ぶことによって、幸せと不幸の感じ方を変えていくことができるのです」
解像度の高い観察力を身につけて
藤田さん曰く、幸せを増やし、苦しみを減らすためには〝執着〟と〝抵抗〟を減らすこと。
では、どうすればそれができるようになるのでしょうか――
「例えば、体を壁に打ち付けられたとき、人は無意識のうちに体をこわばらせ(=抵抗)、痛みの感覚を鈍らせようとします。修行によってこの本能的な〝抵抗〟をおさえるには、解像度の高い観察力を身につけることが必要です」どんな物でも超解像度の顕微鏡で見ると、黒い太線と思っていたものが細かな曲線の集合体だったり、たくさんの色が混ざり合っていたり、ぱっと見とは全く違うことがわかります。私たちの感情も同じことだ、と藤田さん。
「解像度の高い観察力で今の自分の体験を整理すると、自身の〝執着〟や〝抵抗〟のパターンがわかってくるはずです。そして、マインドフルネス(気づき)とは解像度の高い観察力で自分の経験を見ることで、瞑想は観察力の解像度を上げる訓練なのです」
今をありのままに観る眼が心の平静をもたらす
何の努力もしなければ、私たちの眼は曇ってよく見えないまま。だからこそ、偶然に任せず、自発的に解像度を上げる努力をしなければならないと、藤田さん。
「高い観察力を持てば、起きていることをありのまま観ること(=如実観察 )ができるようになります。如実観察ができれば、自分でやっている〝抵抗〟や〝執着〟が何かがわかり、少しずつでも減らしていけるはずです。例えば、何かに依存したり、見栄や損得で物事を判断したりすることもなくなっていくでしょう。そして、心の平静を保ち、自分の足でしっかりと立っていられる成熟した人間へと自分を成長させていけます。そうすれば困難な問題が起きたときも、何をすべきか、おのずと答えが浮かび上がってくるはずです。現実とは、常に航海中の船の先端に居るような状態。状況は刻々と変わり、その都度、自分で考えて対処していかなければなりませんから」
心に留めておきたい 考え方5選
1. 幸せをキャッチする感度を上げる
風のそよぎ、あたたかな日差し、呼吸できることすらありがたいと感じる、幸せセンサーを上げましょう。 坐禅は、空気を深く受け入れ、音や光、匂いなど与えられているものをありのままに受け止めて、自分の存在、ただそれだけに感謝する訓練のようなものです。
2. 他者は思い通りにならない
他者は、自分とは全く違う価値観、人生観で生きているので、思い通りにはならないもの。思い通りにしようとするのは「抵抗」であり、自分の都合に合わないことを認めようしない抵抗のモードが、人間関係をよりこじらせているのです。
3. 先入観を手放し、いつでも白紙に戻る
人は自分が快適でいるために、無意識のうちに他者を思い通りにしようとし、「抵抗」と「執着」を増してしまいます。そして、自身の抵抗や執着が苦しみを作り出している元凶とは気づいていません。他者と関係を築くうえでは、自分の都合や損得勘定を持ち込まず、「抵抗」と「執着」をなくして、いつでも白紙に戻ることが大事。勝手な思い込みや先入観をリセットし、ひとりひとりに応じた関わり方をしなくてはいけません。
4.「こうあらねば」というこだわりをなくす
こだわりがあると、それを他者へ押し付け、「執着」や「抵抗」へとつながっていきます。まずは、自分の中にある勝手なこだわりを探し出し、それらを減らしていく努力を。肩の力が抜け、周囲との関係もラクなものに変わっていくはずです。
5. 将来は〝希望〟で見る訓練を
先のことは誰にもわかりませんが、人は、どうしても将来を案じてしまうもの。ただ、不安材料を探してしまうのはやめましょう。今やるべきことへかける労力を将来を不安視することに使ってしまっては、不安が現実になってしまうことに……。確かなことは今、やれることをしっかりやるということ。ワクワクするような将来を願い、今やるべきことへのエネルギーに変えましょう。
文/坂口みずき
大人のおしゃれ手帖2022年7月号より抜粋
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