【大人のための絵本】vol.10
モデル・アンヌさんの名作選
森林浴のすすめ
緑の中のにぎわいを
こんにちは。アンヌです。
太陽の光が眩しい7月。この時季になると猛烈に森の中に駆け込みたくなり、私は車を走らせます。軽井沢の小屋へ。
到着すると、あたりの空気は毎回驚くほどひんやり。
しばらくテラスで一面の緑に目を癒やしていると、リスの枝を渡り歩く姿が。キツツキが樹をつつく音、何オクターブもの鳥のさえずり、それからセミの合唱…。森はにぎわっています。
少し前に、こんなサプライズがありました。
庭のバーベキューコーナーに灰が蓄積していたので、スコップですくいながら掃除を始めた時のことです。突然、傍から小さな野ネズミが顔を出しました。私の様子をまんまるな目でうかがっているのです。そして隙を見て、驚くほどの早さで反対側の茂みに逃げてしまいました。
可愛い生き物に遭遇した喜びをかみしめながら、灰を片付けていると…。なんと中から生まれたばかり野ネズミの赤ちゃんが出てきたのです!さっき逃げて行ったのがお母さんかしら。スコップでそっとすくい上げ、迎えが来ることを願って茂みの陰に置いてやりました。すると案の定、先ほどの野ネズミが現れ、優しく口にくわえて連れ帰ったのです。
小さな命が救われたことにほっとしました。
ところがしばらくすると、その「お母さん」が再び戻ってきたのです。陰からまた私の様子をうかがっています。どうしたのかと思いながらも作業を続けていると、今度は灰の中からキューキューと微かな音が。よく見るともう二匹が鳴いているではありませんか。私は用心深くスコップですくって、私の後ろで待ち構えている野ネズミのそばに置きました。すると同じように一匹ずつ連れていったのです。
野ネズミの姿はそれっきり。ちゃんと自分の子は三匹だと分かっていたんですね。
緑の中にいると、たくさんの生命が息づいていることに気づかされます。私にはそれが喜びや癒やしとなり、体に活力と心に豊かさを与えてくれるように思うのです。まずはこの2冊で森を感じみて。
『もりのえほん』
作・安野光雅
(福音館書店)1,100円
ページを捲るごとに、針葉樹や広葉樹が重なり合う森の様子が一面に。緻密な筆遣いをじーっと見ていると、ゾウやヤマネコ、カンムリヅルやハトといった動物や鳥たちの姿が浮かび上がってきます。まるでそこここで息をひそめているよう。本を斜めから見たり、逆さまにしてみたりして見つけ出してみて。一体何匹隠れているでしょう?作者による遊び心がちりばめられた美しい隠し絵の絵本です。
『ナマケモノのいる森で』
文/ソフィー・ストラディ
しかけ/アヌック・ボワロベール、ルイ・リゴー
訳/松田素子
(アノニマ・スタジオ)
2,420円
見開きいっぱいに立ち上がる森。木はすくすくと育ち、葉を茂らせています。木々の間や根元を探してみて。あちこちに鳥や動物、人も。ところが潤っていた彼らの暮らしが一変します。機械が大きな音をたて、森を崩しにかかるのです。生き物たちは次々に逃げますが、ナマケモノは?緑が消えてゆく悲しみと再生の喜びを、シンプルな展開と繊細なデザインで表現した仕掛け絵本。贈り物にも喜ばれますよ。
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この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。