【著者インタビュー】高瀬隼子さん
「むかつきながら書いた」という着想の経緯、
兼業作家としての日々とは?
誰もが持ち得る小さな怒りや違和感に焦点を当てた、高瀬隼子さんの新刊『いい子のあくび』。
「むかつきながら書いた」という着想の経緯、兼業作家としての日々について伺いました。
「毎日3行でも書く」を兼業作家としてのルールに
日常の中で、いつの間にか溜まっていた小さな怒りやモヤモヤ。
そうした感情をすくい取り、「自分の心の奥にも同じような気持ちがあるのかもしれない」と思わせるのが、高瀬隼子さんの新刊『いい子のあくび』です。
主人公は、気が利いて愛想が良く、上司や恋人からも〝いい子〟と評価されている直子。
実は内心で「割に合わない」とフラストレーションを抱いている直子は、ある日〝ながらスマホ〟をしている高校生に、わざとぶつかってやろうと決意します。
「着想のもとは、私自身が感じている”むかつき”。自分に起きた出来事だけでなく、友人の話やニュースを聞いて、『毎日むかつくことが多いな…』と思っているなかで、歩きスマホという題材が出てきました」
本作を執筆したのは、2019年の『犬のかたちをしているもの』で小説家デビューを果たした後。
子どもの頃からの夢を叶えたものの、「自分は1作だけで消えてしまうんじゃないか」と追い詰められていたそう。
「デビュー作は奇跡的に拾ってもらえたけど、もう二度と文芸誌には書けないだろうと思っていたんです。1行でもなにか書かなきゃ…という気持ちでひねり出したのがこの作品でした」昨年は、『おいしいごはんが食べられますように』で第167回芥川賞を受賞。
その後も兼業作家として、日中は会社に勤め、夜と週末に執筆する…という生活を送っています。
「毎日3行でもいいから必ず書こうと決めています。昨日の夜も執筆中の小説に取りかかろうとWordを開いたのですが、ついYouTubeを見ちゃって(笑)。
気がついたら遅い時間で、明日も仕事だし早く寝なきゃ! とパソコンを閉じました。でも私はすごく出不精なので、会社を辞めたら平気で1週間くらい家にこもってしまって、小説も書けなくなる気がするんですよね」
今のところは兼業作家を続けるつもり、という高瀬さん。
年齢を重ねた先に、書いていきたいテーマはあるのでしょうか。
「私は9歳の頃から小説を書いてきましたが、高校生、大学生、30代…とその都度書くものが変わってきたし、10代で書いていたような作品はもう書けない。40、50代になれば、また見えるもの、考えることも変わるはずなので、それを見逃さずに書いていきたいと思っています」
『いい子のあくび』
高瀬隼子
¥1,760(集英社)
歩きスマホの人を自分ばかりがよけるのは「割に合わない」と考える主人公、結婚式への違和感を拭えず、友人の式に出席できない女性…など、小さな違和感を丁寧に描いた3話を収録。タイトルの『いい子のあくび』は、100案ほど出した中から選んだものだそう。
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