松之助オーナー・平野顕子さんの N.Y.からおすそ分け vol.10
女友だちの在り方
私はそんなに多くの女友だちがいるわけではありませんが、1年間連絡が途絶えていても、「元気にしてはる?」で、すぐに会話が成り立つ友人が何人かいます。
そして、声を聞いた途端、時間の隔たりがなくなり、気負うことなくおしゃべりに花が咲きます。
長く、密度の濃い関係は、互いに嘘がなく、いい時ばかりでなくても寄り添えて、相手の苦言を受け入れる事ができる貴重な存在。
歳を重ねてくると、ますます女友だちに助けられ、ありがたさを痛感している今日この頃です。
その1人が、お菓子作りの恩師であり、大親友でもあるシャロル・ジーン先生。
彼女とは、私がアメリカンケーキのディプロマを取得後も25年間、家族のように、姉妹のようにお付き合いをさせていただいています。
子どもが成長し、私が40才を過ぎてアメリカに留学。
卒業して、何で生計を立てようかと思っていたところ、
「ニューイングランド地方に伝わるデザートを習って、日本で教えたら?」
と、英文学の教授がアドバイスをくださったんです。
その教授のお宅に歓迎会で伺った際、お手製のポピーシードケーキをいただいたのですが、それがものすごく美味しかったんです!
尋ねてみると、曽祖母の代から家庭に伝わるケーキということ。
私は目の前の霧が晴れたように、「私もケーキを極めたい!」と思い、お菓子作りの先生探しが始まりました。
その1人が、アップルパイコンテストで審査員をしていたシャロルです。
私と出会った頃のシャロルは、コネチカット州の田舎町でB&B(宿泊と朝食を提供するペンションのような施設)をオープンする予定で、購入した教会をご主人がリノベーション中でした。
お菓子作りを教えていただくのは難しいかもと思っていたのですが、
「時間が有るからお教えするわよ」
と、快く引き受けてくださったんです。
あの時の先生の笑顔と光景を今でも鮮明に覚えています。
私の新しい人生の始まりでした!
シャロルの教えてくださるニューイングランド独自のケーキやお菓子は、私にとってどれも新鮮なものでした。
ケーキだけでなく、歴史や文化をお話ししてくださることで、味に対する想像力や興味が深くなったものです。
今では、シャロルから受け継いだアメリカンケーキの数々を松之助でたくさんの皆さまに楽しんでいただいています。
お店のリーフレットのこの写真は、実は5歳のシャロルなんです!
さらにこの後、偶然という言葉では片づけられないような、人の世のめぐり合わせの不思議を感じざるを得ないような出来事が起こりました。
私が幼少期の頃、初めてできた親友のロビンと、シャロルとのご縁がきっかけとなり、60年後に遠いアメリカで再会を果たすことに!
シャロルのお隣さんに、日本からこのリボンでデコレートしたクッキーを持っていったら、彼女から
「この名前の女の子を知っている!」
と言われたんです。
ロビンが日本にいたこともご存じで、その場ですぐに連絡してくれました。
その後、ニューヨークで再会。
長い年月が経っても、あの頃の優しい面影のまま、信頼のできる素敵な女性になっていました。
当時、私が通っていた京都の同志社幼稚園にはたくさんの外国人の子女が通っていて、そこでロビンと出会いました。
ご自宅に遊びに行かせていただくようになった時、アメリカンクッキーと大きな冷蔵庫に驚き、とてもワクワクしたのを覚えています。
私にとってロビンがアメリカとの最初の関わりだったこともあり、お店のリボンに彼女の名前を入れているのです。
先日も久しぶりにニューハンプシャーのシャロルのお宅に夫婦でお邪魔して、キャラメルウォールナッツパイを試作しました。
たわいもないおしゃべりをしながらの作業はなんて楽しいんでしょう!
最近の話題は、もっぱらお互いのサードライフのこと。
シャロルは今、写真家を目指して猛勉強中だそうです。
ちなみにシャロルの義理のお姉さんは、ミステリー作家としてデビューされたとか。
みなさん年齢関係なく、まだまだ人生チャレンジしているんですよね。
自分らしくイキイキと過ごされていらっしゃる様子を見聞きしていると、本当に勇気づけられます。
今私は、前々から興味のあったオーストリアのデザートの作り方をシャロルに教えてほしいとお願いしています。
これをマスターできたら、もうお菓子に関しては自分としてはやり残したことはないかな。
自分なりになんとか形にしたいと思っています。
これが私の新しい挑戦です!
A laugh is the shortest distance between two people.
一度しかない人生、笑いがある人生を送りたいものだと思っていますが、実際の人生は山あり谷あり。
それをどのように克服するかは、連れ合いの協力もさることながら、私にとっては女友だちの存在も必要です。
最終的には自分で覚悟を決めて決断する以外にほかないのですが、それでも女友だちは強力な助っ人になります。
人はみな、自分の決断に背中を押してくれる人が必要なのでしょうね。
いくつになっても切磋琢磨しながらも寄り添える女友だちは、一生の宝物です。
平野顕子
料理研究家、スイーツ店「松之助」オーナー
京都の能装束織元の家に生まれる。47歳でアメリカ・東コネチカット州立大学に留学。17世紀から伝わるアメリカ・ニューイングランド地方の伝統的なお菓子作りを学び、帰国後、京都・高倉御池に「Café & Pantry 松之助」、東京・代官山に「MATSUNOSUKE N.Y.」と、アップルパイとアメリカンベーキングの専門店をオープン。京都と東京にはお菓子教室を開校。2010年、京都・西陣にパンケーキハウス「カフェ・ラインベック」をオープン。著書に『アメリカンスタイルのアップルパイ・バイブル』(河出書房新社)、『「松之助」オーナー・平野顕子のやってみはったら! 60歳からのサードライフ』(主婦と生活社)など多数。プライベートではひとまわり以上年下のイーゴさんと再婚し、サードライフを過ごす。
text/Emiko Yashiro(atrio)
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