47歳作家が行き着いた「今の幸せ」。更年期と穏やかに付き合う方法【作家・澤田かよこさん】
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閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。
その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。
今回お話を伺ったのは・・・
澤田かよこさん
1979年東京生まれ。森に住む動植物をモチーフに木枠を使った絵織物を制作。最近は草木で染めた糸での絵織物を試行錯誤中。個展のほか、木枠で織る小さな織物のワークショップも開催している。
平常心で迎える更年期
織絵作家の澤田かよこさんは夫と二人暮らし。現在47歳で、まさに更年期の入り口、あるいは最中とも言える年頃だ。
「ここ2年ほどはめまいや気持ちの落ち込みがありました。こんなふうにしようと予定しても、動きたいようには動けなくて」
以前は創作を始めると寝食を忘れて没頭していたが、無理はしないようになった。 「子どもの頃から車酔いしやすくて、多分三半規管が弱いので、疲れると出るんでしょうね。だから、とにかく休む、寝るようにしています。寝ると落ち着きますね。寝るの大好きです(笑)」
また、もともとはイライラする性格ではなかったのが、ときどきちょっとしたことでイラついている自分を発見するように。
「8歳年上の穏やかな姉が不調そうなのを見ていたので、そういうものかなとも思っています」 比較的順調で予測がついていた月経も不順になって、間があくようになったが、それを気に病むことはない。
「心と体はつながっているんだなと実感します。生理に規則性がなくなったので、出かけている時に『今なったら困るな』と思っていると案外来なくて、家に帰ってホッとしたら来る、とか。おもしろいですよね」 いわゆる不調はあるにしても、かよこさんはとても平常心で更年期のこの時期を過ごしているようだ。どうしてだろうか。
辛い経験も自分の人生の1ページ
7年ほど前にかよこさんは流産を経験した。不妊治療の末の待望の妊娠だったので、絶望の淵に立たされた。
当時は小さい子を見ると辛くて居たたまれないほどだった。
「負の感情ばかりでした。その頃どう過ごしていたか鮮明には覚えていないのですが、人に会う気にならなくて、創作もできませんでした。糸紡ぎは無心にできるのでしばらくしてからやっていたかもしれませんが、アイデアを出して絵を織ることはできませんでした。だいたい1年くらいかな」
そんなかよこさんを夫は散歩に連れ出した。そして定期的に食事をしていた友人夫婦との食事の日程も決めた。
「散歩して外に出るのはできたのですが、食事はとても行く気になれませんでした。なんて無神経なんだろうとさえ思いました。でも、いざ出かけてみると、自分の状態を友人に話すことができて、少しほっとできて。友人たちには子どもがいるのですが、彼らが順調に育っていて、そういう普通のことが続いている様子に安心もできました」
それでも鬱々とした日々は1年ほど続く。気持ちを切り替えて不妊治療を再開する気にはなれない。そこに追い打ちをかけるようにコロナ禍が到来し、子どもが欲しいなどと希望するわけにはいかない空気を感じた。
「沼に入り込んだみたいに、後悔ばかりしていたし、この先も真っ暗に思えました。でも、ぱっと吹っ切れるというものではありませんが、徐々に受け入れられるようになりました」
辛い経験だったが、この経験があってよかったと、今では思えるようになった。
「全部ではないですけど、人の辛さを想像できるようになって、人にはいろいろあるんだろうな、言えないこともあるんだろうな、と感じられるようになったので、さまざまな瞬間にありがたい、と思えるようになっていきました。辛い経験も自分の人生の1ページです」
子を授からなかったのにも意味がある
言うまでもなく更年期は、閉経前後の期間なので、子を産む動物としての女性が生物的な役目を終える時期である。
母性の本能はとても強いから、子を持たなかった女性にとって、迫り来る閉経への焦燥の念は強い。残酷な時間切れ宣告のようだ。
かよこさんの40代に入ってからの妊娠は、やがてくる更年期を前にして最後のチャンスでもあった。だからこそ無念さも深かったのだと思う。
しかしその無念を乗り越えて、不規則ながらもまだ月経があるのだから、妊娠への希望は捨てていないのだろうか?
「自然に任せていますが、自分の子どもが欲しいという執着はなくなりました。今は二人の暮らしに満足しています。子どもがいたらどうだったかなあと思うこともありますが、自分の子でなくても、甥っ子とか出会った子どもたちとの関係を大切にしたいです」
自分の子どものことばかりを考えて、前に進めなかったが、いろんなきっかけがかよこさんの人生への気づきになり、前を向くようになった。
「みなさん、それぞれの人生の中で辛いことも悲しいことも楽しいこともある。同じ経験でも時間をかけずに前を向ける方もいれば、もっとずっと長くそこに留まる方もいるので、一概には言えないのだなと気づきました。専業主婦で子どもを育てている人も、仕事をしながら子どもを育てている人も、その人それぞれの人生がありますよね。子を授からなかったのは、『もっと織物をがんばりなさい』ってことなのかもしれない」
ある日、かよこさんは作り手として一つの目標を持つきっかけに出合う。
「辛かったときに、ハロウィンのお化けモチーフの和菓子を見て、クスッと表情が緩んだんです。ずっと笑えていなかったのに。人の手で作ったほっこりしたものはずっと好きだったのですが、それをきっかけに自分もほっこりしたものを作る側になりたいと思いました」
たしかに、かよこさんの大きな織絵作品には自然の神秘のような静謐な世界が描かれるが、小品には思わずクスッと微笑みたくなるものが多い。
季節の手仕事に助けられて
渦中にいるときには話せない個人的な出来事。それを話せるようになったときに、人はそれを経験として昇華している。人によっては更年期とそれに付随する出来事が非常に苦しくて、「チェンジ オブ ライフ」などと前向きに捉えられない場合がある。
ましてインタビュー記事として公にするなんてとんでもないと感じる人も少なくない。
だから本連載の取材はほとんどの方が更年期を過ぎて、「乗り越えた経験」として語ってくれる。
かよこさんと筆者が出会ったのは、6年前。ちょうどかよこさんが「沼」から出ようとしていた頃だと、今回のインタビューではじめて知った。
「そこだけに着目するとマイナスに思えるけど、それ以外にありがたいことがたくさんあるので、今はこの人生でよかったと思っています。それぞれにその人が活き活きすることがある、それぞれのフィールドがありますね。私は自分がやれること、やりたいことをやらせてもらっているので、精一杯生きようと思います」
織絵作家のかよこさんは心底の自然好き、手仕事好きだ。
作品のモチーフは自然からのインスピレーションであり、使う素材も羊毛のそのままの色や草木染めが多い。
そして作品だけでなく、日々の食事や保存食にも季節ごとの手間をかける。
「草木染めをしているときの香りや、羊毛の手触りに、ハッとしたりほっとしたりします。あまりに不調な時には何もせずに寝ますが、何か手を動かすことでリズムが整っていきます」
車で15分ほどのところに畑を借りて、ただその場にたたずみ、小さな収穫をする。
「体調が乱れたり気持ちが沈むこともありますが、畑に行くことは、乾いたところに水が染みていくように気持ちが潤う時間です。植物に触れているから、更年期の不調にも自然に対処できているのかもしれませんね」



〜私を支えるもの〜

「季節ごとの保存食を仕込むときには香り、手触りを感じて、無心になれます」



聞き手:石田紀佳さん
植物文化研究家。旧池尻中学校を活用してつくられた複合施設「HOME/WORK VILLAGE」の植栽や屋上菜園「ART FARM IKEJIRI」を運営。近著に『エコロジカルスキンケア 一人ひとりが小さな地球』(薫風堂)草木と手仕事Instagram:@kusaki_to_teshigoto
撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里
※大人のおしゃれ手帖2026年8月号から抜粋
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この記事を書いた人
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