「大人のための絵本」vol.13 モデル・アンヌさんの名作選
おうちに帰ろう
ほっとする場所へ
こんにちは。アンヌです。
行楽シーズン。お出かけも楽しいですが、家に戻ってきた時の、ほっとする気分ってありますよね。
私はコンビニにも、それに似た安心感を覚えたことがあります。
フランスから帰国したばかりの20代の頃。夜遅く仕事を終えて最寄り駅で降りると、辺りはもう真っ暗でした。そんななか、一軒だけ白い光を放っているところが。フランスにはなかったコンビニです。24時間営業がありがたく、まるで「おかえり!」と出迎えてくれるようだと思いました。「いらっしゃいませ~」や「ありがとうございました」という、変わらぬ挨拶に心和み、家に帰ってきたなぁという気分に。
それから数十年経った今。最寄りのコンビニは徒歩3分弱。もう白い光にも、店員の声がけにも慣れ、以前の感覚はすっかりなくなりました。
さて、先日のことです。気が付くと、首にぶら下がっているはずの結婚指輪とハートのペンダントがない。一度外したきり、どうしたのか思い出せません。アクセサリーホルダーにも、バッグのポケットにもない。近所の道を見回しても、前日に寄った薬局に問い合わせても見つからず。猫の仕業かもと、ソファーやピアノの下を探しても、見つかったのは十円玉と埃が少し。
もしかしたらコンビニに? そう思って、いつもの店舗へ。
店員さんに事情を説明をすると、「おまちください」と奥へ。戻ってくると「こちらにはないようです」と一言だけ。ドライです。
翌日、また別件で同じ店舗へ。すると「ありました?」と声をかけられました。昨日対応してくれた若い店員さんです。まさか気にしてくれていたとは。
「あ、まだなんです」。
そう答えると「見つかるといいですね」と笑顔を返してくれました。
それから少し日が経って、またコンビニへ。
レジに行くと、「見つかりました?」と。やはりあの店員さん。
「気にしてくれていたの? ありがとう! ほら!」
私は喜んで、Tシャツの下に隠れたペンダントを引っ張り出して見せました。彼女は「ああ、良かった。すみません、出過ぎたまねを」と、少し照れた様子でした。
変わり映えのないコンビニのやりとりに変化が。昔感じたようなアット・ホームな場所になりました。
ところでそのペンダント。なんと日傘の中にあったのです! 探し物って時々思いもよらぬところから出てくるものですね。
今回は家の絵本2冊です。「おかえり!」と迎え入れてくれるような、ほっとする自分の家。時代や習慣によってまちまちなのが面白い。
『百年の家』
作/J.パトリック・ルイス
絵/ロベルト・インノチェンティ
訳/長田 弘
(講談社)2,090円
1656年に建てられた古い家。時は流れ、20世紀初頭。廃屋になったその家の思いを汲むように、職人たちは修復作業を施し、人々が出入りするように。辺りには葡萄の木が育ち、数年後には結婚式が。そして麦の刈り入れ時を経て、二度目の大戦へと時代は流れていきます。家は人々の喜びや悲しみを静かに見守りながら、少しずつ傷んで……。やがて訪れる新時代には、はっとさせられます。100年の家の歴史を描いた、深く壮大な作品。じっくりと緻密な絵をながめるのも、詩のような文を追うのもよし。家についてじっくりと考えを巡らせたくなります。
『わたしのいえ』
作/カーソン・エリス
訳/木坂涼
(偕成社)1,980円
多くの児童書の挿絵を手がけた作者による、初めての絵本。丘に立つ一軒の家、街のアパート、豪華な宮殿。それに船で暮らす人もいれば、物語の中では靴が家ということも。また、移動式だったり縦長だったり……。世界中のさまざまな人や動物の、それぞれの暮らしを描いています。すっきりとした文と、落ち着いた色合いのスタイリッシュな絵。建築に興味も沸いてきそうな魅力的な作品です。みなさんの帰る場所はどんな? 作者は、夫と二人の息子、猫、リャマ、山羊、羊、鶏、メンフクロウ、アマガエルとともに暮らしているそうですよ。
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この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。
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