「大人のための絵本」vol.15 モデル・アンヌさんの名作選
本当に大切なものとは
引き出しから出てきたのは……
こんにちは。アンヌです。
なにかと忙しい師走ですね! 私は膨大な片付けに専念することにしましたよ。
まずは子ども部屋の引き出しから。保育園時代の手提げ袋や帽子、アンパンマンのばんそうこう、キッズエプロン……。それらを引っ張り出しても、まだ奥に何かが。よく見ると、丸めたティッシュです。すかさずゴミ箱へポイ。でも、何か気になって、拾い上げてみました。
出てきたのは、なんと小さな歯。
乳歯が抜けると屋根や縁の下に投げると聞きます。でも我が家では、子どもにティッシュで包ませ、夜寝る前に枕の下へ。目覚める頃には、50円玉のご褒美に変わっている、という習わしでした。「夜中に王子姿の‟ネズミさん”が来て置いていってくれるのよ」と伝えて。
息子の歯が初めて抜けたのは、5歳過ぎ。それから毎年、少しずつ永久歯に変わり、最後に奥歯が抜けた11歳頃のことです。成長とともに御伽噺のような「ネズミさん」の存在を疑うようになり、「本当はパパかママなんでしょう」と聞いてきました。私が「知らない」と答えると、「それなら何か別の生きものかロボットのはずだ」などとブツブツ。そして、思い立ったように手紙を書き始めました。
「本当は何者ですか? サインをください」
奥歯が入ったティッシュに、手紙と赤いマジックペンを添えて。それを自分で枕の下に忍ばせてから寝ました。
翌朝息子が目覚めると、いつものように50円玉が。例の手紙には小さな足跡のような赤い印がありました。
「うわあ! ママ! やっぱりネズミさんだった!」
輝くような笑顔です。子どもの逞しい想像力を感じたのは、あれが最後だったかも。
その後、二度と息子は「ネズミさん」の正体を聞いてきません。不思議な体験のときめきを、そのままの形で心の引き出しにしまったのでしょう。取っておくべきものは豊かな心の経験。それが一番だと思ったら、片付けも物質にとらわれずスムーズになりましたよ。
今回は本当に大切なもののお話を2冊。私の宝物でもあります。どうかこの季節に手に取ってみて。
『サンタクロースっているの? ほんとうのことをおしえてください』
絵・訳/いもとようこ
文/フランシス・P・チャーチ (ニューヨーク・サン新聞 社説)
(金の星社 1,540円)
1987年、アメリカの新聞社『サン』に8歳の少女から手紙が届きました。「友達が『サンタクロースなんていない』と言っています」、「ほんとうのことを教えてください」という内容。返事は即、社説に。記者は「あなたの友達は間違っています」と答えます。本作品を開けば、世の中を美しく、楽しくしてくれる、本当に大切なものが何かがわかるでしょう。世界中から愛されている名文が、いもとようこさんの文によって絵本化。いくつになっても心に染み渡ります。
『ほしのおうじさま』
訳/福本友美子
絵/サラ・マッシーニ 文/ルイーズ・グレッグ
原作/アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
(主婦の友社 1,650円)
砂漠に不時着した飛行士。目の前に現れた小さな王子様に羊の絵を描いてとせがまれます。箱の絵を見せ、この中に羊がいると説明すると大喜び。わがままなバラや偉そうな王様の話など、印象的なシーンの数々は、大人になってからこそ深く理解できることも。「隠れているものは美しい」という王子様の言葉が響く名作を、イギリスの詩人と画家のコラボでダイジェスト版化。優しいタッチが輝き、原作の導入としてもおすすめの絵本です。
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この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。
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