【新作映画】残酷なまでの生々しい現実
「日常が壊れるとき」を描いた3作
子供同士のケンカや、抑圧された女たちの対話。不満ゆえの小競り合い。
日常が壊れゆく瞬間と、その向こう側を描いた物語には未来へのヒントが。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
© 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved
未来への扉を開けていく抑圧された女たちの対話と連帯
人々が自給自足で生活しているキリスト教一派の村。
男たちによる性犯罪に気づいた女たちは彼らが不在の間に納屋に集い、信仰との狭間で揺れ動きながら議論を交わす。
ボリビアで起きた実在の事件をもとにした小説を、サラ・ポーリーが映画化。
今年のアカデミー賞脚色賞を受賞した。
このままコロニーに留まるか、闘うか、それともこの日常から出ていくのか──。
抑圧されてきた彼女たちの対話は時と場所を超え、今を生きる女たちの叫びそのものだ。
ルーニー・マーラ、クレア・フォイをはじめとする実力派の俳優がぶつかり合うソリッドな会話劇であり、意見の違いを乗り越えて連帯していく女たちの物語。
彩度を落としたほの暗い映像が女たちの影を際立たせ、やがて差し込む朝日が未来への希望を感じさせてくれる。
監督:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
『怪物』
©2023「怪物」製作委員会
是枝監督が視点を変えて見つめる子供たちの世界
大きな湖のある郊外の町。小学生の息子の様子を気にかけるシングルマザー、ありふれたケンカをする子供たち、トラブルを穏便に処理しようとする学校側。
それぞれの日常が交錯して世間を巻き込む事件になった先に嵐が訪れ、子供たちが姿を消してしまう。
日本映画の可能性を更新し続ける是枝裕和監督が、『花束みたいな恋をした』の脚本家、坂元裕二とタッグを組み、音楽を坂本龍一が手がけた新作。
物語は視点を変えて描かれ、同じ出来事からいくつもの“真実”が立ち現れる。
母が息子の幸せを思って伝えた言葉が、残酷な刃になる瞬間の衝撃と痛み。
この映画の中で描かれる子供たちの聖域ともいうべき場所の美しさに胸を打たれるとともに、そこを飛び出したありのままの彼らの幸せを願わずにはいられなくなる。
監督:是枝裕和
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、
高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
〈Netflix〉
『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』
アジア系アメリカ人を主人公に小競り合いの向こう側を描く
ホームセンターの駐車場で衝突しそうになった貧しき工事業者のダニーと、リッチな起業家のエイミー。
ここでの些細なトラブルを引き金に、とんでもない復讐劇の幕が開く。
ふたりはアメリカで暮らすアジア系だが、格差社会のなかでまるで違う毎日を送っている。
共通しているのは、内側に溜め込まれた不満と怒り。
小競り合いをきっかけに、爆発寸前だったふたりが暴走し始めるのだ。
家族と穏やかに暮らしたいと願うダニーとエイミーの思いは、空回りするばかり。
エイミーの夫が身を置くアート界へのシニカルな視点を織り交ぜた物語は、正反対で似た者同士でもあるふたりの境界線が溶け合うような最終話まで、一気見必至。
人生における成功と幸福とは? という永遠のテーマを投げかけられた気持ちになる。
監督:イ・サンジン、ジェイク・シュアラー、HIKARI
出演:スティーヴン・ユァン、アリ・ウォン
Netflixシリーズ「BEEF/ビーフ 〜逆上〜」独占配信中
選・文/細谷美香
大人のおしゃれ手帖2023年7月号より抜粋
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