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大人のおしゃれ手帖 6月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2024年6月号

2024年5月7日(火)発売
特別価格:1400円(税込)
表紙の人:桐島かれんさん

2024年6月号

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【インタビュー】フジコ・ヘミングさん
「心ときめくものに囲まれた」東京のご自宅を拝見

大人のおしゃれ手帖編集部

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ピアニストとして世界中の人々を魅了し続けてきたフジコ・ヘミングさん。
先日、4月21日に永眠されました。心からご冥福をお祈りいたします。

『大人のおしゃれ手帖』では2023年春、当時、現役で活躍するフジコ・ヘミングさんのご自宅を訪れて、誌面にてご紹介しました。
「心ときめくものに囲まれた」という東京のご自宅は宝石箱のようでした。
フジコさんはこれまで大切にしてきたこと、おしゃれのことなどを語っていただきました。
それは今もなお、大人世代に響くエールとなることでしょう。

*記事は取材当時のものです。

Profile
フジコ・ヘミングさん
ピアニスト。ベルリン生まれ。東京藝大卒業後、28歳でベルリン音楽学校に入学。帰国後、1999年にドキュメンタリー番組出演が大反響をよび、デビューCD『奇蹟のカンパネラ』が200万枚超えを記録。世界各地で演奏活動を続けている。


心が落ちつく家には 自分の好きなものだけ

セピア色の家具と年代物のピアノがあるフジコ・ヘミングさんの東京のご自宅を訪ねました。

かつては青年座の稽古場だったところ。
ほかにもパリ・マレ区のアパートメント、サンタモニカ、ベルリン、京都・祇園の町家と、拠点があります。

パリから帰国したフジコさんは、コンサートで全国を巡る日々。
そんななか自宅で過ごすのは、かけがえのない時間。

「自分の好きなものに囲まれたこの家で暮らすと心が落ちつくの。ホテルみたいな個性のない部屋はつまらないから」 

部屋には、夏休みの絵日記だったり、アンティークレースをかけたランプシェイド、古いトランクなどがあります。

「家の中がしっくりなじむまで私は10年かかりましたね、置きかえて、また戻して、と。窓辺に飾ったガラス瓶もそう。だから、私が死んだ後は『なにひとつ変えないで』と、伝えています。私はきれいなものが好き。でも、値段は関係ないわ。お金をかけなくても素敵なものはいっぱいあるし。ダイヤモンドよりも、千代紙とか着物の切れっぱしのほうがすごく好き」 

ファッションにも「自分らしさ」を大切にしています。
「ベルリンで暮らしていたころの70年代、パリに遊びに行ったら、みんな颯爽とハイヒールをはいていたの。それはもう素敵でね、カフェで通りを歩く人を見ているだけで楽しかった」

演奏会では、着物をほどいてドレスに仕立てたものや、レースをあしらったドレスを着ることも。

「着物かドレスかどちらがいいかといえば、半々くらいだったかしら。演奏するときは背中が丸く見えないように、袖口が窮屈にならないように、布を足して広げてもらいます。ドレスと共布で、髪飾りを作ってもらうこともあります。髪飾りは、ポイントになって、地肌が隠れて見えなくなるし」 

取材時には紺色のドレスをまとい、黒い上質なレースのタイツを合わせていたフジコさん。
「赤や桃色も好き。1972年にストックホルムで買ったドレスは今も大事にしているの」 

おしゃれについては、年齢を重ねたからこそ、上手につきあえると言います。
「だんだん賢くなって自分に何が似合うかちゃんとわかっていますから。色も形も、自分がどんな服を着たらいちばんきれいなのかを、ね」

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亡き母から受けついだブリュートナー社のピアノ。
鍵盤に象牙を使った名器は、110年の時を越えて美しい音色を奏でる。

「シルバーが好き」という愛用のブレスレットは、パリのショーウインドーに飾られていたもの(右手)と100円ショップの掘り出し物(左手)をミックスした。

蝶をモチーフにしたペンダントはニューヨークで出会った。
「200年ぐらい前の古いものらしい」とフジコさんの宝物。陽にかざすと空色に輝く。

スマートフォンのケースには、ファンから贈られたシールを貼ってアレンジ。
「こまごましたものが好きなの。どこに何を貼るか考えるのも楽しい」とフジコさん。

隠れていた猫たちはフジコさんのピアノを合図に姿を見せた。
12匹と暮らし、ボタンという名の猫がいる。

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片道15キロの道のりを自転車で通った

フジコさんが50歳のころは、ドイツの音楽学校でピアノを教えていました。

「毎日自転車で片道15キロの道のりをハイデルベルクまで走った。楽しかったのよ、体も引き締まったし。演奏家としてのキャリアなんて、まったく頭になくて」 

フジコさんの才能に気づいた人たちは、ニューヨークやロンドンをめざすよう説きますが、金銭的な余裕がなく、8匹の猫が心配で決心がつきませんでした。

「母の訃報が届き、東京の家が人手に渡るのがイヤで、帰国を決意したの。しばらくは無名で、聖路加国際病院でボランティアで演奏したこともありました」 

それがやがて、フジコさんを世に知らしめるNHK『フジコ〜あるピアニストの軌跡〜』という番組につながり、CDデビューした『奇蹟のカンパネラ』は空前のヒットを記録します。 

フジコさんから大人世代の女性たちへ伝えたいことは、「いつ男性に口説かれてもいいように、おしゃれしてきれいにしていてください(笑)。
私はもうダメだなんて思わないで、大丈夫だから。それは人生も同じ。私が一夜にして有名になったのは60代のこと。何かの力が働いて、扉が開くタイミングがある。遅すぎることはないので、いつでも準備していてほしい」 

インタビューのあと、ピアノの前で撮影していたときでした。 
鍵盤に手がふれたかと思うと、部屋中の空気が震え、ピアノの生音が響きます。
やがてフジコさんの代表曲『ラ・カンパネラ』のイントロが聴こえてきました。

「私のピアノを聴いて感涙する人がいるのは、これまでの数奇な人生が音にのっているせいなのかも」 フジコ・ヘミングさんのピアノが、聴く人たちの心を打つ秘密が少しだけ分かりました。

窓辺に並んだ七色のガラス瓶は、あつらえたオブジェのよう。
「きれいでしょう? これは20年ぐらい前に100円ショップで買ったの。少しずつ何度も並びかえてようやく今のカタチに」。
値のつけられない骨董品と名もなきガラス瓶も、フジコさんの美意識で定位置が決まる。

「家も作品」というフジコさんの自宅の壁には、額装された自作の絵がそこかしこに。父や叔母の絵も。

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「絵は独学で」
ファンも多いフジコさんのアート作品

写真左『スウェーデン民話』は’76年ごろの作品で「4、5人が欲しがって評判になった」という。右は「ハンガリー狂詩曲」をイメージした。

絵の具や画材はスーパーなどで買う子ども用。

絵本『ねことワルツを』のために描き下ろした原画。
「父と大森の家でワルツを踊った思い出も描いたの」

窯元で絵付けをした猫の絵皿。

Information

フジコ・ヘミング×マリオ・コシック
アルバム『Adagio』(アダージョ)

「ゆっくりした気持ちで、眠れない夜に聴いてほしい」と願いを込めた最新アルバムは、昨秋ヨーロッパツアー中に収録。マリオ指揮のオーケストラと共演した曲+ピアノソロ(ライブ録音)。*2023年10月末、福岡から秋のコンサートツアーが再開。
問い合わせ:コンサート・ドアーズ
www.concertdoors.com&© 2023 CONCERT DOORS


撮影/中西裕人 文/田村幸子

※大人のおしゃれ手帖2023年8月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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