「大人のための絵本」vol.18 モデル・アンヌさんの名作選
言葉って面白い
「大丈夫です」の真意は?
こんにちは、アンヌです。
「転石苔を生ぜず(てんせきこけをしょうぜず)」(*「転石苔むさず」とも言う)という諺がありますね。
この諺、ヨーロッパでも同じものがあり、基本的には意味は日本語と同じ。「転々としていたら富を築けない」という忍耐の教えです。でも開拓者の国アメリカでは、苔を古臭いものと捉えて、「活発に動いていないと錆びてゆく」といった逆の意味に。フランスでも、どう解釈するかの議論があったのを覚えています。
同じ言葉でも、誰が、いつ、どういう気持ちで使うかによって、意味がまったく違ってくる。
先日のスタバでのことを思い出しました。
注文の時の会話です。「コーヒーはマグカップでもよろしいですか?」と聞かれました。「大丈夫です」と私。「構いません」という意図が、通じたようでした。
次の「ミルクは豆乳などに変えられますが?」にも「大丈夫です」と。これは「ミルクのままで良いです」の簡略です。
「お砂糖などはあちらにあります」と示されたときも「大丈夫です」。「必要ありません」を柔らかい言い方にしたつもりで。
さて。私は右手にマグカップを携え、席に座ってパソコンに向かっていました。
ふいに店員さんから声をかけられます。見上げると、小さな紙カップがずらりトレーに。
「新発売の豆乳で作ったチャイティーラテです」と笑顔。美味しそうな香りが漂い、「アレルギー、大丈夫でしたらどうぞ」と勧められました。
豆乳のアレルギーはない。これはひとついただいておこう。
そこで、私は元気よく「だいじょぶでーす!」と答えました。
この「大丈夫」という日本語。思いやりに満ちた響きがあり、使い勝手が良い。それでつい乱用をしたのが失敗でした。
店員さんはカップを差し出すのではなく、くるりと私に背を向けて、あっという間に行ってしまったのです。きっと「結構です」と解釈したのでしょう。離れていく豆乳チャイティーラテを、今さら「ください」とは叫べません。
そうとなると、なんだか余計に欲しくなり、私は急いで家へ。
台所でシナモン、ベルガモット、クローブなどを潰し、アッサムティーと混ぜて、豆乳で数分。とびきりの豆乳チャイティーラテを作りましたけれどね。
「転石~」も「大丈夫」も、さまざまな顔がある。
今回は新年度に向けて、言葉の面白さを楽しむ絵本2冊を選びました。世界が広がりますよう。
*次ページでは、アンヌさんのおすすめの2冊を紹介します
この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。
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