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大人のおしゃれ手帖 6月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2024年6月号

2024年5月7日(火)発売
特別価格:1400円(税込)
表紙の人:桐島かれんさん

2024年6月号

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「大人のための絵本」vol.19 モデル・アンヌさんの名作選
花の季節に

アンヌ

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記憶に残る美しい花束

こんにちは。アンヌです。
 足元にすみれやたんぽぽ。花壇にはチューリップ。見上げればサクラが、ハナミズキが、と次々に咲くこの美しい季節が訪れると、ある花束を思い出します。
 時は大学時代。フランスでは、高校を卒業すると、多くが親元を離れ、ルームシェアか狭い部屋で一人暮らしを始めます。勉学に勤しみながらアルバイトで生活費を稼ぎ、食費は最低限。洋服も買わない。贅沢や安泰を手放してでも、独立と自由を手に入れようとする学友たちで溢れていました。
 一方の私は、当たり前のように肉料理やお菓子が食卓に並ぶ実家暮らしで、のらりくらり。自立を考えつつも腰は重いままでした。
 ある夕方。当時のボーイフレンドと電話で話していると、朝から何も食べていない、前日も一食だけと言うのです。月末のバイト代を待っているのだと。慌てた私は母が買った缶詰を数個持ち出し、彼が暮らす屋根裏のワンルームへ。ところが、頑なに受け取りません。当時の私には理解できませんでしたが、今思えば自尊心が許さなかったのかも。
 それから少しして、呑みに出ようと誘いが。
 彼の状況を考え、実家暮らしの私がご馳走するつもりで応じました。お店の席に座ると、知識が豊富で優しい彼との会話はとても楽しく、ビールを初めて美味しいと思ったのもよく覚えています。
 突然、花売りが入ってきました。痩せこけた頰に穴の空いた上着。一目で生活の苦しさが分かりました。「ルーマニア産だよ、良い香りだよ」と訛りのあるフランス語をお店にとどろかせ、各テーブルを回りますが、誰ひとり首を縦に振りません。
 私たちの近くにも来ました。くたびれた薔薇の花束を抱えています。
 私が断るつもりで首を横に振ろうとしたその時。目の前の彼が「一つ」と言ってコインと交換し、私にプレゼントしてくれたのです。
 結局、お会計も彼は譲らず。バイト代が入ったのかも聞けないまま、その後なぜか疎遠になってしまいました。残っているのは貧相な花束があれほど美しく見えたことはないという強い記憶。高尚な人格こそが人の心を和ませ世の中を輝かせると分かり始めた、遠い日の話です。
今回は心が和む花束の絵本を2冊。

*次ページでアンヌさんのおすすめする2冊をご紹介します

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この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエアンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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