「大人のための絵本」vol.24 モデル・アンヌさんの名作選
美しい満月に感謝
アンコール遺跡の夜に
こんにちは。アンヌです。
月がひときわ明るく見える季節になると思い出すのがカンボジアです。私が従妹とアンコール遺跡を訪れたのは20代の頃。まだ観光客もまばらで、素晴らしい寺院群を巡りました。そして迎えた旅の最終日。
私と従姉は、ガジュマルの大木が絡むタ・プロム寺院を後にし、夕日スポットのプレ・ループ遺跡へ向かう一直線の道を急ぎました。
遺跡の入口から上の回廊まではまるでクライミング。登るとそこには、広大な圧巻の眺めが待っていました。あたりをオレンジ色に輝かせ、ゆらゆらと沈んでゆく夕日。あまりの美しさに時間を忘れ、気がついたらもう空が暗くなりかけています。
慌てて振り向くと、今度は目の前に大きな満月!
ドラマチックでしたが、見とれている時間はありません。
足元を探りながら出口までなんとか下ります。ほかの観光客は帰ってしまっていたうえに、予約したバイクタクシーの姿もありません。
私たち二人が途方に暮れていると、しばらくして「ごめんごめん」というようにバイクのお兄さんが現れてくれました。
さあ、東南アジア風に3人乗りで帰路へ。しかし、これで帰れると安心したのも束の間。乗ったバイクは、もと来たタ・プロム寺院への直線道路を辿りません。そして突如ブレーキがかかり、私たちは降りるよう促されました。クメール語なので、理由がわからない。お兄さんはバイクを押しながら進み始めます。私たちはその後をついてゆくしかありませんでした。月明かりだけを頼りに、街灯もない田園の中を私たちはどのくらい歩いたでしょう。ふと、小さな集落に着きました。
そこには大柄の男性が立っていました。お兄さんとなにか話し合い、二人は小屋の中へ。やがて、大きなたらいを抱えて戻ってきました。水が張ってあります。その中にタイヤを突っ込み……。泡が出る箇所を探しているのを見て、やっと状況が分かったのです。パンクでした。
修理が終わると、お兄さんはニコニコと再び私たちを乗せてバイクを走らせました。無事、宿泊先に到着。ホッとした途端にクメール語が理解できたのです。「こっちの道のほうが近いんだ」と。
満月の光に見守られた、ちょっとした珍道中でした。
今回は月が美しく描かれた作品2冊をご紹介します。秋の夜長を楽しんで!
*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します
この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。