カテゴリー

人気タグ

大人のおしゃれ手帖 3月号

大人のおしゃれ手帖

最新号&付録

大人のおしゃれ手帖
2026年3月号

2026年2月6日(金)発売
特別価格:1730円(税込)  
表紙の人:永作博美さん

2026年3月号

閉じる

記事公開日

最終更新日

この記事の
関連キーワード

大人のおしゃれ手帖
の記事をシェア!

「大人のための絵本」 モデル・アンヌさんの名作選 
クリスマスに! じんわりと美しいお話
~『賢者のおくりもの』『森のクリスマスツリー』~ vol.39

アンヌ

この記事の画像一覧を見る(2枚)

大切なクリスマスの時を!
シモーヌさんへ

 こんにちは。アンヌです。
 12月は街がイルミネーションで華やぎ、プレゼントや特別なディナーなどイベントが多いクリスマスシーズン。何よりも大切な人を想うことで、心が温かくなる特別な時です。
 そんな「クリスマス」の意味を深く感じたのは、シモーヌさんのことがあってからです。
 シモーヌさんとは、私が10代のころ、パリの実家で週に1度掃除と洗濯をお願いしていたハウスキーパーさん。パリの共働き家庭では、このように人手を借りるのはさほど珍しいことではありませんでした。
 トイレ掃除とアイロンがけが見事でしたが、それ以上に善良なお人柄が印象的でした。
 移住したばかりのころ、私は現地校になじめず、勉強や友達づくりに苦労していました。いつも暗い気持ちで家に帰っていましたが、シモーヌさんがいる日は別。体調の確認やお天気の話題で明るく話しかけてホッとしたものです。私がたどたどしいフランス語で返事をしても、通じていない素振りを少しも見せない寛大さがありました。また鬱(うつ)を患う息子さんを一人で抱えていたようですが、それでもいつも朗らか。でも非常に慎ましい生活をしているのは、継ぎ接ぎが目立つ服と笑うたびに見える傷んだ歯からも想像できました。
 毎月末、テーブルの上の月給袋を大切にポケットにしまって帰る姿。母が忙しいあまり幾度も支払いの用意を忘れても、必ず「来週でいいわよ」と明るく言っている姿。それに身につまされるような感覚を私は覚えたものです。
 月日が経ち、私のフランス語はゆるやかに上達。学生(大学)をしながら時給の良い通訳のアルバイトをしていたある12月24日のことです。夕方家に戻ると、シモーヌさんが帰り支度をしていました。でもいつもの挨拶はなく、表情が翳(かげ)っています。そして遠慮がちに「月給袋は?」と。彼女が催促するのは初めてだったので少し驚きましたが、また忘れたんだと思い、母のまねをして「来週に」と安易に答えてしまいました。すると「こんなことってあるかしら」と悲しげな表情で、「だって今日はクリスマスなのよ。クリスマスだというのに!」そう言い放って、玄関ドアを強く閉めて出て行ってしまいました。けれどもあまり深く考えず、ふと「今日はクリスマスだ」ということだけを思い出した私は、帰宅の遅い母に代わってすぐにご馳走の買い出しに出かけました。
 帰り道、近所のカフェの脇を通ると、シモーヌさんが息子さんと肩を並べて座っているのが見えました。息子さんも少し外に出られるようになったのだな。親子の間には先ほどの険しさはなく、喜びでいっぱいの和やかな雰囲気が漂っていました。二人の手元には小さなエスプレッソが2つ……。
 私のお財布には、バイト代の残りがまだ十分入っていました。どうしてさっき私が母に代わってシモーヌさんにお金を渡さなかったのだろう。そうしていたら、あの親子の手元には別のものがあったかもしれない。
 クリスマスだというのに、クリスマスだというのに。
 後悔と感謝の気持ちがいまだに渦巻き、今年も亡きシモーヌさんに思いを馳せています。
 人の幸せを祈り楽しい時をともに過ごすクリスマス。今回は、この日の大切さをじんわりと感じる美しいお話を2作ご紹介します。

*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

この記事のキーワード

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ アンヌ

モデル、絵本ソムリエアンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

執筆記事一覧

記事一覧へ戻る

大人のおしゃれ手帖の記事をシェア!

関連記事