「大人のための絵本」vol.26 モデル・アンヌさんの名作選
ささやかな日々
水回りの機能がくれたもの
こんにちは。アンヌです。
長年暮らした今の住まい(賃貸)を引き払おうと決意しました。ここでの暮らしはあと数か月。
そう思ったら、キッチンや化粧台、バスルームの壁などとの別れが惜しくなり、妙にしんみりしています。この便利な日本の住宅の水回り。機能性という面では、パリの暮らしとは雲泥の差です。
パリでは、キッチンにはたいてい大きな食洗機が付いています。なので、流しが高性能でなくても、洗い物はなんとかクリア。トイレに関しては、一般家庭では必要最低限。ただし日本のように便利ボタンがあれこれ付いていたり、蓋が自動で開いて出迎えるといった心地よさはありません。
そして一番困るのはバスルームです。お湯の出がなにせ悪い。およそどこでも、シャワーのお湯はチョロチョロとしか出てきません。水道の配管に問題がありそうですが、ヨーロッパの水が硬水ということも大きな原因でしょう。シャワーヘッドは使っているうちに中でミネラル成分が結晶化してしまい、頻繁に目詰まりを起こしてしまうんです。おまけに排水口、洗髪料や髪の毛が流れることを想定していないのか、穴が小さい。すぐに詰まって流れが悪くなるので、シャワールームの足元は常にじゃぶじゃぶ。浴槽では栓をしなくても水がたまるということも。
こうした状態に、いつの間にか慣れたものの、心のどこかで不便さを感じていたのかもしれません。今住んでいる3LDKに引っ越してきたときには、ひどく感激しました。シャワーヘッドからもうもうと出てくるあったかいお湯。広い浴槽内には、半身浴が楽にできるステップも。排水口は大きく、取り外しが楽にできるネットがあらかじめ設置されてもいました。さらに壁の大理石調パネルは汚れが目立ちにくくてありがたいですし、お掃除をすると簡単にピカピカ。模造素材への抵抗はすぐに消え、日本の家はこうも快適なのかと唸ったのでした。
タイルが施された味わいのあるパリのバスルームはおしゃれです。でも一家がストレスなく、ささやかに日々暮らせるよう支えてくれたのは、今の我が家の水回り。この頃は毎日撫でては「今までありがとう」と言って労(ねぎら)っています。
今回は、ささやかな暮らしぶりが謳われた、詩人による素敵な作品を2冊ご用意しました。秋の深まりとともにしみじみと味わってほしいと思います。
*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します
この記事を書いた人
モデル、絵本ソムリエアンヌ
14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。