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大人のおしゃれ手帖 3月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2026年3月号

2026年2月6日(金)発売
特別価格:1730円(税込)  
表紙の人:永作博美さん

2026年3月号

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「大人のための絵本」 モデル・アンヌさんの名作選 
じんわり温まる「火」のお話
~『森のおくから』『あかり』~ vol.41

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揺らぐ火、ほどける心

こんにちは、アンヌです。

先日、北海道の東川(ひがしかわ)という極寒の町を訪れました。雪はさらさらで、結晶が裸眼でもはっきりと見えるほど。友人たちと、スノーシューで3メートル近く積もったパウダースノーの森へ入ると、エゾ松やダケカンバが静かに立ち並び、あたりは神聖な空気が漂っていました。

ガイドさんに案内されたのは、垂れ下がる針葉樹の枝の下に自然にできた雪の窪み。かつてアイヌの人々が冬の狩りの際に暖を取り、煮炊きをしていたところだそうです。

火を焚(た)くときには、まず雪の上に燃えにくいナナカマドの木を敷き土台に。そこによく燃える松の木を重ねてゆく。空気の通りを良くするため、数本の薪を支え合うように組むことも大切だそうです。さらにアイヌ文化では、薪の組み方にも「実用」と「観賞用」があると聞き、ふと暖炉の前で過ごした自分の時間が思い出されました。

私が幼少期を過ごした家には暖炉があり、童話を読んでもらったり、マシュマロを焼いたりした和やかな記憶が今も残っています。その後、ヴァカンスのたびに滞在していたフランス・ノルマンディーの家にも暖炉が。「シュミネ」と呼ばれ、子どもが中に立てるくらいの大きなものでした。

滞在中、夕食のメインが骨つきのリブロースに決まると、1時間半ほど前から準備が始まります。小枝と新聞紙を重ね、その上に薪をクロスさせて丁寧に積み、火をつけます。薪をどんどん焚(く)べて炎が大きくなると、次は台所作業。厚さ5センチは優にある牛肉の塊を常温に戻し、塩胡椒をたっぷりまぶします。暖炉の薪がしっかり燃えたところで、火かき棒と薪ばさみを使って崩し、煙の立たない、めらめらとした良い炭火を作るのがコツです。そこへ大きな鉄のグリルをドンと置く。肉がくっつかないよう、十分に熱してから下ごしらえを終えたリブロースをのせます。レア好みでも、表面が少し焦げるくらいがちょうどいい。シュミネの火でなければ生まれない、旨味の凝縮された格別の味になるのです。

夕食が終わると、種火に再び薪を焚べ、勢いよく燃やします。暖炉の前には肘掛け椅子が二つ。グラスに残ったワインを手に一つに腰掛け、もう一つには、あるときは親や妹、あるときは友人、そして夫が座りました。このときの火は、まさに「観賞用の火」です。ゆらめく炎を見ていると不思議と心がほどけ、胸内にある思いまで言葉になる貴重な『間』が生まれるのです。

アイヌの人々は、人間の力が及ばないすべての存在を「カムイ」と呼び、敬ってきたそうです。火もまたそのひとつ。人に温もりと明かりを与え、食料を口にできるものへと変え、健康をもたらしてくれるもの。一方で、「火は人間の訴えや願いを聞き入れ」(*)るとも言われるように、人の心をほぐし、うるおいを与えてくれるような気がしてなりません。寛大であるには、激しく燃え上がるのではなく、揺らぎながらも消えずに在り続けるべきなのかも。極寒の森で出合った火の話と幾度も寄り添ってくれた暖炉の記憶。その温もりを暮らしの中で丁寧に手放して行きたいと思いました。

今回は、寒い日の心まで温めてくれる「火」のお話をご紹介します。

(*)『北海道の歴史と文化と自然ポータルサイト』より

*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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